小説 | ナノ

 まずは個人を特定しやすそうな写真ということで、職場の制服姿で映る一人の青年からあたることにした。
 制服は全国展開しているコンビニのもので、名札はあるがさすがに字は小さすぎて読めない。だが窓に映る空は夜、そしてアーケードと南側を中心にした地図の中にそのコンビニは四件。これである程度絞ることが出来るだろう。
「今回は細かい連絡が必要になるから三人で行動しよう。日の入り時間を考えて、十九時にこの店舗に集合。身元が分からないように私服で来ること」
 幸い翌日学校は休みである。深夜帯まで捜査する可能性も考慮して親には友人の家に泊まりに行くということにして出かけることにした。
「外泊する程度には仲のいい、ウソに付き合ってくれる友人……」
「いねぇのか」
「いないんだね」
「いないんです」
 何せ中学時代から部活一筋だったせいか、話す程度の友人ならば数人いるが、悩みを打ち明けるような親友というやつがいない。
「うーん、夜間活動は僕らにまかせて、今回は休んでようか」
「えっ、い、行きます!なんとか誤魔化してみせます!」
「夜中に女を連れまわすってのがまず駄目だろう。俺たちじゃ責任取れねぇよ」
 それを言われると言葉に詰まる。何かあったとき、一緒に行動していたのが年上の男子となれば必ず言及されるだろう。それは公子がどんなに否定しても意味のないことだ。
「そ、そうですね。先輩方に責任を擦り付けることになりかねませんからね」
 と言いつつも、内心では別のコンビニから回ればもしかすると自分が先に相手に接触できるかもしれないなどと考えていた。しかし。
「何かあったら家に電話するから待機しておいてね」
(あ、定時連絡いれてくるパターンだこれ)
 勝手に出てこようものならば許さないぞと花京院の笑顔が語った。

 だが数日張っても写真の男は見つからなかった。ある日の放課後、公子が思い切って考えをぶつけてみる。
「あの。アルバイト、やめたんじゃないでしょうか」
「え。どうしてそう思うんだい?」
「目覚めたスタンド能力を悪用して小銭を稼いでるんだと思いました」
「……なるほど!」
「真面目な花京院先輩では思いつかない発想だとは思いますが」
「おい、俺を何故外した」
 今日はまだ日が高い内から直接聞き込み調査をすることにした。コンビニを回って直接彼の特徴を伝えるのだ。そして案の定、一件目にして正解を引いた。
「ああ。大川くん。彼先日辞めちゃったところなんですよ」
(やっぱりー!)
 店員と話をするもあまり突っ込んで聞いては疑われる。どうしようかと手をこまねいていると、後ろでアンセムが銃を構えて何かを見つめている。そして公子も視界を共有しているのか、空ろな表情で話しに相槌を打っていた。
(主人さん?)
『モウ少シ……話ヲ引キ伸バシテ』
「……あ、あの店員さん!その、大川さんについてなんですが……」
 結局中身のない話を三分ほど続けたところで公子が手でOKサインを作った。それを合図に三人はコンビニを後にする。
「何をしていたんだ」
「連絡先を探していました。コンビニのバックヤードにならおそらく緊急連絡網や採用時の履歴書なんかがあると思って、大川という文字以外を透過しながら探してたんです。忘れないうちにメモしました!」
 そこには彼の電話番号、住所が控えられていた。
「やるじゃねぇか」
 承太郎がニヤリと笑ったのを見て、公子は優越感のようなものを感じた。
(私だって、役に立てる!)

 書かれていた住所は小さなボロアパートで、郵便受けに大川の文字がある。
「相手はスタンド使い。それも、主人さんの憶測が正しければスタンドを手に入れた途端仕事をやめてしまうような人だ。まあ、高熱もあるから体調が原因かもしれないが、聞き込みの結果を見る限りではそれはなさそうだ」
 花京院が手を動かすとハイエロの体が末端からするすると解けてひも状になっていく。それがアパートのドアの隙間に入り込み、中を偵察する。
「在宅中だ。まだこちらには気づいていない。さて、どうする?最初から手荒にいくか、それともまずは話してみるか」
「とりあえず縛ったんでいいんじゃねぇか」
「まずはお話を伺わないと」
 承太郎と公子が同時に言葉を発し、互いが信じられないといった顔で見合わせた。
「テメェのやり方じゃリスクの割りにリターンがねぇ」
「疑わしきは罰せずは刑事裁判の基本ですよ。この法治国家で何をおっしゃるんですか」
「まあまあ。騒ぐとバレるよ二人とも」
 花京院の言葉でヒートアップしそうになった二人は冷静さを取り戻す。
「花京院、テメェはどうなんだよ」
「僕も承太郎に賛成だ。相手の手の内がわからない以上、奇襲は有効だと思う」
「わからないからこそ慎重になるべきでは?」
「それじゃ身動き取れなくなるだろ。それともこの男をしばらく付け回して能力を確認すんのか?その間に尾行がバレて行方をくらませてしまえばまた手がかりゼロからやり直しだぞ」
 結局どちらが悪手なのかといった議論には意味がないと早々に悟った三人は、空気的に多数決で先手を打つことにした。
 まずはハイエロが縛り付けて承太郎が話を聞きにいく。この時点で、ハイエロの本体が承太郎だと思わせることで、相手をかく乱する。もしも暴れたり、犯人とつながりがあると判断した場合、アンセムの援護射撃で敵にダメージを与える。そこからスタープラチナの奇襲をかけて沈まないということはまずないだろう。
「そう構えるな。三対一だ」
 だが公子が不安なのはそこではない。スタンドを撃つということは本体にもそれ相応のダメージを与えるということ。公子は、誰かを撃つという行為に緊張を覚えていた。
「主人。俺のスタンドの破壊力は半端ねぇ。精密な動きも可能だが、ダメージを抑えて殴るというのは向いてないようだ。テメェが仕留め損なえば、俺が全力で相手を殴ることになる。相手に気ぃ使うっつんなら一撃でなんとかしろよ。外した時点で俺もスタンドを出す」
「私、サーブ外すことまずありませんので」
 狙って撃つ。この動作は何年も繰り返してきたもので体に染み付いている。形こそ銃撃ではあるが、それはあくまで精神のビジョン。やることは試合のときと変わらないのだ。
「……補足した。承太郎!」
 ハイエロがドアの隙間から進入し、鍵とチェーンを開ける。その後間髪いれず部屋で荷物整理をしている男に触手を巻きつけ身動きを封じた。
 花京院の掛け声と中から聞こえる男の悲鳴を合図に承太郎が玄関を蹴破って中へと突入する。その様子を、スコープ越しに公子とアンセムが見つめている。
「大川、だな?」
「テメェら……何者だ!」
 男の背後からスタンドが現れる。帽子を被っているような形の頭部、右手には鞭が握られている。鞭といってもひも状のものがついているあれではない。競馬などで使われるような形のものだ。
(武器を出した。撃たなきゃ!)
 そう、公子が思ったと同時にアンセムは引き金を引いていた。思考速度で放たれる弾丸は庭木や壁をすり抜けて一直線に敵スタンドの武器である鞭をへし折った。
「当たった!」
「いや、主人さん、まずい。早くリロードを!」
 花京院の言葉に公子は不思議そうにしながらもボルトを引いて次に備えた。が、一瞬の判断の遅れが致命的な事態を招く。
「今ヤツは『テメェら』と言った」
 つまり、仲間がいると確信しているのだ。状況判断だけで言えば敵にアドバンテージがある。その状態で公子は、次弾装填を怠った。
「僕は突入する。君はその場で援護射撃を!」
 慌ててスコープで中の様子を見ると、敵スタンドが足でハイエロの触手を切り裂き、同時に本体の逃走経路を確保すべくベランダを開けていた。
 ハイエロが傷つけられると、走っている花京院が苦しそうにわき腹を押さえる。承太郎はスタープラチナを出すも逃げに徹する相手が射程距離を微妙に外すように動いてしまう。
(私の……せい……)
 そう自分を責めるのと同時に二発目が射出された。


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