小説 | ナノ

 雨脚が弱まり、なんとか地下鉄に逃げ込めるまでの雨量になったので二人もその日は解散とした。同じ駅で下車し、違う方向に分かれる頃には小雨になっていた。
「じゃあ、また明日。先ほどは学ラン、ありがとうございました」
「ああ」
 ずぶ濡れの学ランにもう一度袖を通す気になれず、手に持って家に帰る。空条家の門扉を潜るとちょうど玄関先に母であるホリィがおり、雫を垂らしながら入ってきた息子を見て慌ててタオルを用意した。
「んもー。急な雨で傘も持ってなかったから心配したのよ。連絡くれたら迎えに行ったのに!」
 そう、今までホリィは自宅にいたのだ。

 数日後。今日も今日とて進展しない捜査隊がとった次の行動は、デスクワークである。財団目黒支部の一室を借りて、今まで被害にあった人物をもう一度洗い上げようということだ。
「ということで主人さんにも色々と尋ねることがあるからよろしくね」
「はいっ」
「まず、前に承太郎が言ってたけど犯人の目的がスタンド使いを増やすということなら、素質がありそうな人間が多く集まる場所に出没するはずだ。で、今までの被害者なんだけど……」
 ホワイトボードに拡大した写真と地図が貼られる。中でも昨日見回りした繁華街付近は数が多い。
「やはりこのアーケードを中心に行動しているようだ。それ以外だと南の方にばらばらと被害者がいるが、このアーケードより北側は全くない。ここで、アーケードで襲われた人とそれ以外の人の写真を比べて欲しい」
 ちなみに公子がやられたのはアーケード以外の場所である。こちら側には公子と承太郎の自宅があり、帰宅途中に倒れていたところを通行人が発見したというのが経緯だ。
「先入観かもしれないが、アーケードの人はこう……不良のテンプレートのような格好の人物が多い」
(それを改造制服二人に言われても説得力ないな……)
「で、南側は比較的おとなしい外見が多い。もちろん、不良っぽい人もいるけど」
 南側の路地についた矢印の上には公子の写真も貼られている。病衣を着ているので入院中に撮ったものだろう。
「僕の仮説なんだが、アーケードで不良が多いのは、こういった場所で人目につかないところまで行くのがガラの悪い連中ばかりなんじゃないかな。主人さんたち南側の被害者は、わざわざ繁華街に出かけて誰もいない路地に行ったりする事はないだろう?」
「そうですね」
「彼らは後ろ暗いことをするために人目につかない場所に移動する。そこを狙われた。南側の人たちは、まあ帰っている途中だから誰もいない道を歩くこともあるからね」
「花京院、先に結果を言ってくれ」
「せっかちだな。まあいい。つまり、犯人は一人でいる相手にしか攻撃しない用心深い性格だ。加えて、アーケードより南側を拠点としている」
「え」
「おそらくアーケードへは得物を狙って通っているんだろう。その行き帰りにいい人物がいたらそこで行動に移す、という結果から、このような分布になっているんじゃないかな」
「……その推理に穴はないと思うぜ」
「ああ。そして、あと三十分ほどでジョースターさんがここに到着する。これを踏まえて今日は南側を中心に捜索しようと思う」
「ジョー……スター?」
「承太郎の祖父だ。ざっくり説明すると何かを探す能力を持った人だよ」
 高校生三人が武力により戦う意思をもっているのだとしたら、ジョセフのハーミットパープルは何の意思なのだろうか。娘に、孫に、街に、仲間に、危害を加えんとするものをいち早く察知する。どんなに鋭い拳も遠くまで届く弾丸も、どこを狙えばいいのか分からなければ打ち出すことが出来ないから、そこに導いてやることこそが己が使命という、正に影ながら一行を支える隠者である。

 が、隠者の登場は予期せぬ方向で頓挫した。
「空条さん。ジョースターさんですが、現在病棟の方に到着しております。お体は多少の疲労が見える程度ですが、スタンドの方が……」
「!?」
 財団員の報告に慌てて立ち上がる。もしやジョセフの存在を犯人が察知して始末しにかかったのか。体は無事と言うが何かしら状態異常のようなものが起こる厄介な術中にはまっていないか。
 ブリーフィングルームから医療施設へと移動した高校生三人は、白いベッドの上で座る白髪の男を目にする。服こそ病衣ではないものの、青くなった顔は正に病人であった。
「じじい」
「おお、承太郎。すまんな……要はこの街にいるお前ら以外のスタンド使いを念写すればいいんだと思って早速能力を使ったらこのザマよ。どうも数が多すぎるようで、スタンドがオーバーヒートのような状態になってしまった。数人しか念写出来なかったが、まずはこの女の子……ああ!承太郎!後ろ!そ、その娘!スタンド使いじゃああああ!」
「……知ってる」
 例の通り魔に傷を負わされた者は、その大半がスタンド覚醒に伴う高熱で死亡している。だがそれをほんの数時間で乗り越えた人物は、体調が悪かっただけなのだと病院にすら行かない。
 つまり、財団も把握しきれていない覚醒者がこの街のあちこちにいるというわけだ。
「病院にかかってすらいないというのは考えていなかった。必ず熱が出るもんだと思っていたからな」
「それで、ジョースターさん。お体とスタンドはどうなんです」
「すまん、しばらくスタンドはロクに使えん。まああっちのテーブルのリモコンを取るくらいなら余裕なんじゃが」
 そう言いながら紫色の茨がしゅるしゅると伸び、リモコンに絡み付いて戻ってきた。
「念写能力はないと思って欲しい。まあ能力のキャパを超えて活動させようとしたから一時的なもんじゃ」
「何のために来日したんだ……」
 早速アテが潰れた捜査隊一向は、ひとまずジョセフの写した数枚の写真を手がかりに、スタンド能力に覚醒した人物を当たることとした。
「私の写真を除けば三枚」
「この中に犯人がいればいいんですが」
「おいじじい、この街には何人くらいスタンド使いがいそうなんだ?」
「全体数まではまだ分からん。能力が治り次第地道に一人ずつ念写するしかないな」
 相変わらず砂漠でゴマ粒を見つけ出すような途方もない作業量に、期待を高めていた三人は余計にうんざりした。


prev / next
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -