小説 | ナノ

 事件の被害者が運び込まれた病院が、財団関係の病院だったのがつい最近の出来事。そこで担当した医師がホリィの症状とよく似ているということで急遽超常現象解明部門と共同でその患者の治療に当たった。
 しかし努力の甲斐なく患者の熱は引かず息を引き取り、死因は心不全とされた。
 それから他の病院に当たり、患者の容態を聞いて確信する。この一連の事件はスタンドが関係していると。
「そこで事件被害者が高熱から目を覚ましたと言う報せを聞いて、その後重要な情報源である君を威圧して追い返したということも聞いてね。いやー、驚いたよ。僕の知る承太郎はもっと冷静で理知的だと思ってたからね。不機嫌な自分の感情そのままに八つ当たりのように追い返すだなんて信じられないよ全く!」
 その言い方と目線は承太郎を非難して遊んでいるようだ。言われた側の承太郎はばつが悪そうに帽子のつばを下げて舌打ちをしている。
(そっか。花京院先輩がこんなに親切に案内してくれるのって、私が事件の重要参考人だからだよね)
 入った喫茶店でアイスクリームをつつきながら自分が潜在的に恥ずかしい勘違いをしていた気がした。
「念のため傷跡を見せてくれるかな」
 既に塞がった足の傷に、ガラスを扱うかのような手つきで触れる。さすがに公衆の面前でこれは恥ずかしかったが、声をあげる前にさっと離れてくれた。
「痛かったね。でももう大丈夫。犯人は僕たちが捕まえて見せるよ」
「え」
「ん?」
「あ、いや……」
 どうやら花京院たちは自分たちでこの事件の収集を図ろうとしているようだ。それは普通の考えだろう。まさか能力に目覚めたばかりの少女が戦おうと思っているとは考えないだろうし、そのことを伝えても危険だととめられるのは目に見えてる。だが。
「あの、私も事件解決に協力させて欲しいんです」
「ああ。よろしく頼むよ。それで犯人の姿……」
「先輩。先輩方の期待している情報はハッキリ言って全く記憶にありませんが、知っていることは全てお話します。でもそうじゃなくて、犯人を捕まえるために、探すために、私もこの能力を使いたいんです」
『ヨロシク頼ムワ』
 ひらひらと手を振るアンセムが背後から出てきたのにつられたのか、ハイエロとスタープラチナも姿を現す。特に普段無表情のスタープラチナがポカンとした顔になっており、互いに顔を見合わせた。
「そういえば先輩方のスタンドって、喋らないんですか?」
「あ、ああ」
「俺のは喋る」
「オラオラはノーカンだよ?」
「オラ以外にも喋るぜ」
「ってそうじゃなくて……主人さん。君をこれ以上危険な目に合わせるわけには行かない。不思議な力に目覚めて気が高ぶっているんだろうが、この力を過信して前線に出るならば力ずくでも止めさせてもらうよ」
「過信してるように思いますか?私自身、使ったことがないのでどのくらい強いのか分かりませんが、もし断る理由が私の性別だと言うのならば私も無理に協力をお願いしません。一人で何とかします」
「……分かった。ただし、君から聞いたアンセムの能力は遠距離型だ。銃という武器の特性上もそうだが、そういった意味では前線には向かわせない。いいか、必ず距離をとること。撃つよりも間合を確保することを重視すること。守れるかい?」
「はいっ!」

 改めてお互いのスタンドの紹介を終え、三人は店を出ようと席を立った。レジ前は客が数組列を成しており、承太郎がそこに並ぶと周囲の人は皆彼を見上げた。
「主人さん」
 花京院が手招きして外へ誘導する。
「あ、はい。ちょっと待ってください、お金……」
「いいのいいの。今日はなんとなく承太郎が出す流れになってるのは分かるでしょ?」
 いたずらっぽく笑う花京院に、公子は恐る恐る同意した。
(あとで暴力的手段で回収されたらどうしよ)
 そういえば承太郎のスタンド能力については公子は教えてもらっていない。敵や味方関係なしに自分の手の内をべらべらしゃべるのはいやだと拒否されたのだ。
 一方の花京院は色々と教えてくれた。能力に始まりいつからスタンドに目覚めたのか、またスタンド使いあるあるなんかも饒舌に語っていたが、途中承太郎に止めてもらっていた。
(まあ本人があれだからどう考えても近距離タイプだよね)
「今日は遅くまで付き合ってくれてありがとう。帰りも電車?」
「はい」
「じゃあ乗換えまで承太郎と一緒に行ってくれないかな」
「……え」
 明らかに顔に出ていたのだろう。公子のリアクションを見た花京院も困り顔になっている。
「承太郎が待ってたのは君だっていうのはね、昨日の非礼を詫びたいからなんだ」
「いや、施設内で(一応)謝っていただけましたし、急に押しかけた私のほうが悪いですから」
「まあ、男を立ててやってくれよ。素直じゃないからね、彼」
 地下鉄の改札で花京院と別れる。線が違うため店を出て早々に二人きりになってしまったのだ。
「どっち方面だ」
「あ、こっちです」
「そうか」
 公子は承太郎の家まで行ったことがあるからわかっているのだが、おそらく降りる駅も同じだ。
 やって来た電車は帰宅ラッシュ前という時間帯のおかげで席もそれなりに空いていた。
 シートの隅に座るよう促されその誘導のままに腰を下ろすと、隣にどっかりと座った承太郎と逆側の壁のせいでものすごい圧迫感を感じた。
「閉まるドアに、ご注意ください」
 トンネル内を反響する走行音の中に、混ぜるように小さな声で承太郎が呟いた。
「昨日は悪かったな」
 タタンタタン……タタンタタン……。
「あ、いえ」
 規則正しいリズムの中に、公子の返事も小さく混ざる。それ以降二人は駅に着くまで互いに口を開かなかった。
 駅についてもその沈黙は変わらず、改札を出て地上への階段を上りきったところでようやく事務的に言葉をつむいだ。
「私こっちですので」
「ああ」
 さようならも言わずに二人は背中を向けた。


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