小説 | ナノ

 花京院につれてこられた先は白を基調とした建物だった。この大きな建物があるのは知っているが何のための施設なのかは今まで気にしたことがない。初めて足を踏み入れたそこにある看板には、車輪のようなロゴとスピードワゴン財団目黒支部という文字があった。
「表向きは医療財団なんだけど、スタンドのような超常現象を解明する部門があってね。僕も随分とお世話になったんだ」
 財布からカードを取り出し、それを扉前の機械にかざすとカチリという音がした。鍵をかけて厳重に管理されているセクションに自由に出入りすることができ、なおかつ部外者を独断で連れてくることができるというのはなかなかにすごい立場の人間ではないのだろうか。
 思わず口をポカンと開けっ放しにしているところに、顎を勢いよく閉めさせる姿が見えた。
「やあ承太郎。来てたんだ」
 昨日ぶりのあの仏頂面野郎との再会である。
「ああ」
 ちらっとこちらを見たのが分かる。だが公子は承太郎の姿を視認した瞬間から目を逸らし続けているので視線がかち合うことはない。
「待ってていいか?」
「ぷっ……クク……い、いいよ」
「チッ」
 今の会話に何かおかしいところはあるのだろうか。この二人の関係は公子はよくわからないのだが、スタンド使い同士であの話しぶりからして友人関係にあることは確かなようだ。そんな彼を用事が終わるまで待っていることのなにがそんなに面白いのだろうか。
 承太郎も不思議そうな素振りは一切見せず、花京院の押し殺した笑いに不機嫌そうに舌打ちをする。この二人には今の会話に何の意味があるのかわかったようだが公子はそれを詮索する気もない。
「おい」
 この偉そうな呼び方が、公子のことを指しているのだと気づき、恐る恐る顔を上げた。帽子のつばが影を造り、表情を読み取らせにくくしている。してはいるが、彼の顔から昨日のような威圧感はない。
「昨日は怒らせちまったようだな」
「いえ、怒らせたのは、私の方ですから」
 一度承太郎の顔を確認するとまた目線を降ろして顔を向き合わせることを避ける。
(私の方ですから早くどっかいってくれ)
「まあそう構えんな。ここの奥の連中はスタンドは使えねぇが理解はある。取って食うわけじゃねぇ」
 それだけ一方的に伝えると、片手を挙げて花京院に向けてそのまま外へ向かう方向に歩いていった。
「さあ、行こうか」
「そうですね。お待たせさせるわけに行きませんから」
「うん。でもまあ二時間近くは待ってもらうかな」
(そんなにか)

 一体何を聞かれるのか、または聞かされるのかと思ったが、なんのことはない。スタンド能力とは何か、という基本的な疑問を解決するようなことだった。
 あと、公子はスタンド使いとしての才能がそれなりにはあるようだがいかんせん精神的に不安定な部分が多く、また高熱を出す可能性もあるかもしれないという体調管理についての注意事項を伝えられ、今日は解散となった。
 話の途中、花京院ならばきっと知っていることばかりだろうから先に帰っていても構わないと五度程訴えたのだが五度却下された。
「あの、空条先輩をお待たせするのも悪いですし」
「いや、彼が待ってるのは僕だけじゃないよ」
「?」
 ようやく解放はされたのだが、明日もまた来て欲しいということと、連絡先の交換を行った。
「じゃあ行こうか。今度こそ、女の子にふさわしいお店に案内できそうだよ」
「え?空条先輩と会う約束……」
「もちろん、君も込みだよ」
(今すぐ帰りたい)
 だが必殺技の“用事があります”は使えない。なぜならここまで財団の話に付き合ったのだから、何か用があれば事前に言っているはずである。ここは素直に“あの人が嫌いなのでお断りします”を使うべきか。でもまあとりあえずは話題を逸らしてうまいことフェードアウトを試すのが先か。
「あの、これ私がお断りした場合、やっぱり先輩を無駄に待たせていたことになるんじゃ」
「いいんだよ。二時間待ちぼうけを食らって当然さ。僕は緊急時でもないのに女性を邪険に扱うようなやつは許せんからね」
 余計に断りづらくなった、やぶへびのパターンだった。
「お待たせ承太郎。じゃあ行こうか」
 植え込みの段差に腰掛けていた承太郎が恨めしそうにこちらを見る。足元には大量の吸殻が落ちており、ニコチンでカバーしきれないイライラが彼からにじみ出ているのがありありと分かる。
 結局断れずに着いてきてしまったことを後悔する公子の隣に、その元凶がスッと近づく。歩幅を狭めようとすると歩くペースを調整されてなんだかんだで隣をキープされる。反対側に逃げようとしてもそれ以上は花京院にぶつかってしまう。
 つまり公子は今、校内切ってのイケメン二人を両脇に従えて歩くという妄想のような状態にあるわけだ。
(どうしてこうなった)


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