小説 | ナノ

 犯人の手がかりは一つ。スタンド使いであること。以上。
(さすがにこれだけじゃーなー……)
 遠距離操作型のスタンド使いである公子は、アンセムの視界や感覚を自分のものとして得ることが出来る。早速その能力を屋上で試しているところだった。アンセムの腕は狙撃用の銃になっており、そこにくっついているスコープを覗き込めばあらゆる障害物を通り越して遠くまで見ることが出来るのだ。
 つまり、人の家の中も覗き放題ということである。もっともこの力をそんな下らない使い方するつもりはないのだが。
「……?」
 そのスコープに興味深いものが映った。突風に飛ばされた学帽を、青白い腕がキャッチして持ち主の頭に戻したのだ。
(空条先輩……?)
 周囲には誰もいない。承太郎はこの陽気だというのにポケットに手を突っ込んで歩いている。だとすると、あの手の正体はスタンドだとしか考えられない。
(え、まさか初日でツモっちゃうなんて考えてなかったんだけど。ど、どうしよ。犯人を捜すっつったって、見つけたらどうすればいいのよ。まあ、先輩が犯人だって決まったわけじゃないんだけど)
 犯人じゃなければ、学校だけでなくスタンド使いとしても先輩になるわけだ。扱い方を教えて欲しいと思うところもあるし、何かコンタクトをとらなければならない。
 となると問題は彼を取り囲む防御壁だ。三年女子の肉の壁を乗り越えるのは、ある意味犯人と戦うよりも厄介かもしれない。
(うーん……あ、スタンドを出して近づいてみればいいんじゃないかな。アンセムは確かスタンド使いにしか見えないらしいし。でも、犯人だったらそのあとどうしよう。いや、もしそうなら私が生きてるとこ見たら殺しにくるわけだし、当たった方がいいよね)
 今から屋上の階段を駆け下りて承太郎に追いつくのは無理な距離だ。だからといって学年も違うし接点もないからどこかで待ち伏せをしなければならない。帰路についた公子は、日陰になっていて、あと出来れば座って待てるような場所はないかときょろきょろしながら歩くことにした。

 翌朝、公子は目星をつけておいた場所で待機する。承太郎が近づけば黄色い声があがるのですぐにわかるはずだ。何人かの生徒を見送ったところで、案の定キャーキャーと先輩方のやかましい声が辺りに響きはじめた。
 神社の境内から立ち上がって外へ出る。小さな鳥居を潜ると公子の傍らには銃身の腕を持つ女性型の何かがあった。
 石畳の道を進んで曲がり、承太郎と進行方向を合わせる。ちょうど今、真後ろにいるはずだ。
(背中を見せ続けるってのは緊張するな)
 まだ承太郎が犯人ではないと確定したわけではない。いきなり背後からドンとやられる可能性もあるわけだが、今は目撃者も多数いるのでそれはない……と思っている。
 目的地は全員同じなので自然と向かう方向は揃ってくる。結局門を通って下駄箱への分岐までの間、承太郎から接触してくることはなかった。
(女の子が多いから声かけづらいとか?)
 しかし休み時間も昼休みも、そして放課後も、向こうからの接触は一切なし。
(こうなったら、自分から……いや、なんか怖いなぁ)
 取り巻きに目をつけられるのと、承太郎本人と両方が怖い。だが殺人犯相手にしようというのにこれしきのことでびびってはいては話にならない。
 とりあえず取り巻きの目を避けるために放課後直接家へ向かうことにした。住所は聞かなくても知っている。学校近くにあるバカでかいあの家だ。

 放課後、さながら死地へと向かう気持ちで公子は空条家の門扉を目指した。瓦の乗った白壁がこれでもかと続いている。それに沿って歩を進めるうちに、この家の住人は正に住む世界が違うというヤツだと思い知らされた。
 ようやく見えてきた木の門扉を潜り、石畳を歩くとようやく目指す“空条”の表札が見えた。だがその隣にあるスイッチを押すことが出来ず、三回ほど深呼吸を意味なく繰り返したところでようやく意を決した。その瞬間。
「何か御用でしょうか?」
「ふぉっ!?」
 背後から急に声をかけられ、慌てて振り向く際にアンセムが姿を現した。本能的に奇襲に備えているのか、公子をかばうような形で声の主との間に割って入る。ちなみにスタンドがダメージを受ければ本体にもフィードバックされるのだが、直撃よりは多少マシなので無意味な行動というわけではない。
「あらぁ。スタンド使いのお嬢さん!」
「え、あの、見え……」
 底抜けに明るい声と同様、人を安心させるような笑顔を浮かべるその女性が承太郎の血縁者であることは明確だった。混血とはいえ西洋人同士のハーフであるホリィのその瞳は、承太郎と同じ透き通るようなエメラルドの色である。
「あら、その制服、公暁東の?承太郎に何か御用かしら?承太郎ー。可愛らしいお客様よー。ささ、入って入って」
 承太郎に用かと自分から聞いておいて、その返事を待たずしてさっさと話を進めてしまうホリィ。だが玄関チャイム押すのにあれだけまごついていた公子にとっては、このくらい強引に事を運んでくれる存在がいたほうがいいのかもしれない。彼女もまた、どうやらスタンド使いのようだから。

「ここで待っててね。承太郎はもう帰ってきてるはずだから。承太郎ー、いつまで女性をお待たせしてるの」
 ホリィが消えた室内で、座布団の上にきちっと正座するしかできない公子は周囲を見渡した。人の家をじろじろ見るのはどうかとも思ったが、ハッキリ言ってもはや観光地である。中学生の修学旅行で見た京都の寺をぐっと広くしたような、品格のある、それでいて一般人が住む用途に造られたとは思えない造り。
 庭からカーンという鹿威しの音が聞こえ、さらに緊張が高まった。
「承太郎、彼女さん甘いものお好きかしら?」
「誰かも分かんねぇヤツの味の好みなんざ知るかよ。大体名前も聞かずに家にあげるな」
 廊下から話し声と二人分の足音が聞こえてきたが、途中で一つの足音が小走りで遠ざかっていった。残ったのはずしりと威圧感のある足音の主。障子に映ったシルエットはこの家で生活するには随分と大きなもので、障子を開けると鴨居をくぐるようにして中に入ってきた。
「誰だテメェ」
「は、初めまして、空条先輩。私一年の主人公子といいます。そしてこっちが……」
「……」
「アンセム、です」


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