小説 | ナノ

『入部届け』
氏名:主人公子
学年・クラス:一年一組
希望部活名:帰宅部

 印鑑も押された不備のない書類である。担任はそれを受け取るときに少し残念そうな顔をしたが、何も事情を聞かずに受理してくれた。
 公子とて本気で部活動に打ち込むつもりならこんな無名校は選ばない。選べるだけの実力があったのだ。
 だがもう決めた。永遠に広がり続ける差を横目に部活を続けるよりも、特別な力を持った以上、それを活かして人助けをするべきだと。
(アンセム、今日の放課後から調査するよっ!)
 心の中の声は、公子のスタンド『アンセム』に届いているだろう。数日前に目覚めたばかりの、公子の、特別な力に。

 公子は入学早々高熱を発症し三日ほど学校を休んでいた。目が覚めたときは病室で、ふくらはぎに怪我の治療痕があった。最初は怪我ごときで入院とは大げさなと思っていたが、どちらかというとその高熱のほうが重症だったようだ。
「足に何か刺さってたみたいだけど、もしかして誰かにやられたとかないわよね?」
 母が心配そうに尋ねてきたが、それに関してはよく覚えていないと答えた。下校途中に急に意識が遠のいて、気がつけば三日後の今なのだからどうもこうも答えようがない。
「何だって急にそんなこと聞くの?」
「アンタ、ニュース全然見てないの?……まあいいわ、欲しいものある?」
「ぷりん」
「はいはい」
 病室は個室で、母が階下のコンビニへ買い物に出て行くと自分一人だけになった。テレビもつけていない部屋は静寂が満ちており、虫が這う音すら聞こえて来そうな気がする。それほどまでに、公子の五感が過敏になっていた。
 だからこそ、今感じる声が何者なのかハッキリとわかった。聞こえるのではない、感じるのだ。
「……スタンド?……そう、そうなんだ……」
 独り言が病室の壁を反響する。音として空気を震わせているのは公子の声だけだった。だが、確かに公子に語りかける存在がある。それは公子の内に存在し、自らを『アンセム』と名乗った。



スタンド名:アンセム
本体:主人公子
破壊力:E
スピード:B
射程距離:A
持続力:E
精密機動性:A
成長性:B

能力
スタンドにのみ効果を発する弾丸の射手。
放たれた弾丸はスタンド以外の障害物は全て無視して直進することができ、ライフルに装着されているスコープを覗けば障害物を透かして見ることも出来る。



『公子。犯人ヲ野放シニスレバ他ノ被害者ガ出ルカモシレナイ』
 ここ数日、公暁区では通り魔事件が多発していた。いずれも体のどこかしらに切り傷があり、その後出血多量ではなく高熱で被害者は亡くなってしまうこともある。
 公子も警察などにも詳しく話を聞かれたが、スタンドのことは親にすら話さなかった。というよりも、そのことに関して誰からも質問を一切されていない。
 だからこそ直感的に分かった。警察はスタンド能力のことを把握しておらず、犯人と自分だけがこの不思議な能力を持つものであると。
(どうすればいいの?確かに特別な能力を手に入れた。だけど、犯人を追うのって危なくないの?でも私がやらなきゃ……絶対に犯人は捕まらない。どうしよう)
 その悩みも、数日うじうじと考え抜くことで吹っ切れた。公子は帰宅部への入部届け提出をすることで、決意を硬くしたのだった。

(この力で、私が街に平和を取り戻す!)


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