小説 | ナノ

 本能。それに抗うのは鉄壁の意思程度では不可能なものがある。長時間の不眠にあれば突如電池が切れたようにぱたりと眠ってしまうし、断食を続けているときに食べ物の映像を視界に入れると食いつくようにそれをじっと見つめてしまう。
 世界には数日に渡る断食を行う宗教もあるが、彼らは食べないことを当然と受け入れているからこそそのような芸当が出来るのだ。従って、人間の三大欲求といわれる睡眠、食事、性交渉の三つを「しなくて当然」として受け入れている人間でないと、それに打ち勝つことは難しいのではないか。
 特に、男は死を感じると生存本能よりも子孫を残そうとするなんて話はよく聞く。それが本当ならば死の気配を肌で感じ取り感覚が敏感になっている承太郎の勃起したそれを鎮めることが出来るのは、旅のメンバー紅一点の公子だけであろう。承太郎は別に「性交渉などしなくて当然」などという究極生命体めいた考えはもっていない。まして相手が惚れた女となれば、むしろ欲求はいつもよりも更に増す。
 もう一瞬自分の踏み込みが足りていなければ、もう一瞬ンドゥールの放つゲブ神が早ければ、脳天を貫かれていたのは自分だった。コンマの奪い合いのような刹那の戦いに、承太郎は死を覚悟せざるを得なかったし、だからこそ生き延びた今不思議な開放感と持て余す欲求を抑えきれず、急いで駆けつけたジープの中で手を振る公子に目が釘付けになった。

 一向は急いで病院に向かう。アヴドゥルをジョセフが、花京院をポルナレフが運ぶこととなり、承太郎と公子は宿の確保をして来いと財布を渡された。
 意外なことにイギーは公子の腕の中で体を丸めている。あれだけ生意気な態度を取っていたが何故か公子にだけはなつく。
「宿探せって言われてもなぁ。私英語もここの言葉もわかんないし」
「高いとこでいいんだよ。いくぞ」
 強引に承太郎が手を取ると、その腕の中にいたイギーがバランスを崩して地面に落ちる。が、お前は本当に犬かと疑いたくなるような身のこなしで猫のように華麗に着地すると制服二人のあとをちゃんと追いかけていった。

 適当な豪奢な門構えだけで選択したホテルのフロントでチェックインを済ませた二人は二つの鍵を受け取る。
「三名様用のお部屋がこちらのキーです。一名様用のお部屋はこちらでございます」
 ジョセフとポルナレフが戻ってくるかどうか分からないが、とりあえず男部屋は大きなものを手配しておく。敵の奇襲に備えイギーは公子の部屋でということでカバンに隠していたが、承太郎が大部屋の方にイギーを開放する。
「イギーちゃんこっち?絶対ポルナレフと喧嘩するよ」
「おいイギー、臭いで敵がいねぇかどうか調べとけ。お前の方の部屋いくぞ」
「ん?承太郎も来るの?なんで?」
「いいから行くぞ」
 そう言ってやはりまた強引に手を取って廊下を進む。更に歩調は速く、焦っているような気配さえ感じる。何かただならぬ様子に不安そうな顔をしながらも、公子は小走りでそれに続いた。
 部屋に残されたイギーは早速完璧にベッドメイクされたシーツを前足でばりばりと毟り取り始めた。
「ど、どうかしたの!?そんなに慌てて」
「ああ……収まらねぇんだ」
「何が!?さっきの水のスタンドに何かされた!?」
「この旅が始まって何日目だったか……割かし最初の方からだ。いつかこう、歯止めが利かなくなるんじゃねぇかとは思ってた」
「?」
「暴れるなよ、怪我させたくねぇ」
 そのセリフで、公子は瞬時に間違った理解を示す。承太郎は今違う敵スタンドから何かしら精神や動きに影響を与える攻撃にあっていると。
 公子は急いで自分のスタンドを出し、承太郎の肉体に取り付かせた。公子のスタンドは諜報活動向けで戦闘に関してはほぼ役に立たない。だからその分得られる情報や発動条件に関しては比較的簡単に何でも調べられるようになっていた。
(異常ナシ!?)
 だからこそスタンドがはじき出したその答えに困惑した。承太郎は正常な思考をもって自らこのようなことをしているのだ。公子を抱きしめ、深く口を付けるなどという行為を。
「いくらそいつで調べても無駄だぜ。何せこれが、俺なんだからよ」
 直立した状態でスタープラチナに羽交い絞めにされる。それを解く力は公子にはなく、公子のスタンドにはもっとない。近接パワー型の相手にこの距離で力勝負など愚の骨頂である。しかし、今それを強いられている状態だ。おそらくさっさとこの束縛から抜け出さないと、目の前でベルトを外している承太郎に何をされるか想像に難くない。
「慣らすの間すら我慢出来ねぇから、一回抜くぜ」
 そう言うと力を込めつつも優しく公子の体を抱きしめた。手が空いたスタープラチナが公子のショーツを無遠慮にずり下ろす。細い太ももの間に承太郎のペニスが差し込まれ、公子の割れ目を擦るように前後に動き始めた。
「言っておくが、早漏ってわけじゃあねぇ。砂漠横断中に抜けなかったからこうなっただけだ」
 そういいながら承太郎の腰の動きは早くなり、公子は足の間が濡れて液体が滴る嫌な感覚を覚えた。恐る恐る俯くと、白い粘液が自分の足を汚している。
「一発じゃ全然収まらねぇ。後ろ向け」
「やめっ……」
「言うな。今だけでいいから。終わったら、もう……」
 顔をベッドの枕に突っ伏す。承太郎の大きな手が公子の後頭部を押さえつけ、スタープラチナの青い手が腰を浮かせるように持ち上げる。四つんばいで尻を突き出した格好になり、制服のスカートをめくれば白く汚れた官能的な光景がそこにあった。一度出したにもかかわらずすでに巨大な質量を取り戻しているそれを、承太郎は迷わずそこにねじ込んだ。
「いっ……!」
 反射的に悲鳴のような声が出たが、それから先は喉につっかえたまま音にすらならないものになった。
 承太郎も何か言っているような、ただ口から音を漏らしているだけのような、荒い息遣いを繰り返している。
 これは性交渉などというものではなく、どちらかというと野生動物の交尾に近い。力のあるオスが、メスを組み敷き自分の遺伝子を注ぎ込む。そして動物と同じように、手短に事を済ませるとさっさと引き抜いた。高くあげられた尻の向こう側から精子をだらしなく垂れ流す、支配されたメスの姿がそこにある。
「……立てるか?」
 ぶるっと身を震わせると、公子はベッドの上に横向きに倒れた。精神的なショックで動けないようだ。
「悪い。しばらく横になってろ」
 そう言うと承太郎は先にシャワールームを使った。さっさと局部だけ洗って公子の始末もしてやらねばと一分弱で出てきたのだが、公子の姿はそこになかった。大部屋のルームキーも見つからない。
(マズイな)

 高校生で彼氏もいない公子に、アフターピルという知識はなかった。あったとしても嘔吐を催す副作用があるので旅の間に飲むことは躊躇する。
 公子は大部屋の方のシャワールームで、裸の我が身の腹部を押さえていた。
(どうしよう。妊娠の初期兆候が出るのっていつなんだろう。でもあと数日でDIOを倒さないとホリィさんが亡くなってしまうのだから、決着がつくまでは体調に変化はない、のかな?でもすべてが終わった後堕胎手術は間に合わない?そもそも堕ろすの?まだ妊娠したかどうかも分からないのに相談する?誰に?)
 思えば生理が来た時も相談できる相手がいなくて散々困り果てたばかりだ。日本から持って来たサニタリー用品は太平洋の海に全て落としたし、そこから先一人で行動しなかったものだから買い足す暇がなかった。まさかここまでの長丁場になるとは思っていなかったため予定日が近付くごとに相当焦ったものだ。
(あの時は結局めちゃくちゃ恥ずかしかったけどジョースターさんについてきてもらってこっそり買い物できたけど、さすがにこんなことはいえない。あなたのお孫さんに、危険日にナマでレイプされてしまいました、なんて)
 このとき、扉の外では承太郎が激しく部屋の扉を叩いていたのだが、シャワーのお湯が打ち付ける音にそれはかき消されていた。
(こんなの、ひどいよ。もし妊娠していたら……私、好きな人との子供を堕ろさなきゃいけないの?)
 涙は流れる側からシャワーに洗い流されていく。太ももについた精子もとっくに洗い落とされている。だが公子の子宮に宿る熱は、そのまま、灯り続けていた。


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