小説 | ナノ

「あれ、公子。あんた彼氏と帰らないの?」
「別れたっ」
「早っ!半年経ってないんじゃない?」
「だってー。あーしろこーしろうるさいんだもん。付き合うってなに、相手を束縛することなのー?」
 そんな女子の雑談に、花京院は胸中複雑な思いが湧いた。つまり君は今フリーなんだね、という喜びに近いものと、その程度の相手ならなぜわざわざ付き合ったんだという呆れと、僕ならばそんな想いはさせないよという、何とも言えない感情。
 普通ならば最後の感情は恋心に属するものだから明るいイメージを持つ言葉で表現されるべきだろう。例えば愛情だのなんだの。が、花京院典明の恋心は十七歳とは思えない程に重たくねっとりとしたものが沈殿していた。
 表面だけ見れば透き通っていて綺麗。だけどそこに足をいれないで。水底に溜まったヘドロがかき混ぜられて、それを汚してしまう。
「もういいわー。しばらく二次元でいいわー」
「しばらくってかあんた付き合ってたときからアニメキャラにきゃーきゃー言ってたじゃん。そりゃ彼氏も気分悪いよ」
「いやだって絵だよ?絵に嫉妬するなんておかしくない?」
「その絵に恋するのもおかしいと思う」
「いや、ちゃんと現実と区別つけてるから。大丈夫大丈夫」
 公子がアニメやゲームなどのサブカル系コンテンツに黄色い声を上げるのは今に始まったことではない。小学生の頃は少年漫画の必殺技を真似て傘を何本もへし折り、中学生になるとコスプレに手を出し始め、高校生でようやく彼氏が出来たかと思うとこれだ。
「だからね、マンガキャラは好きだけどそういう好きじゃないの。ただ、二次元は私に注文をつけてこないじゃない?そこがいいの」

 図書準備室は滅多に人の出入りしない教室で、部員数三人のマン研の部室でもあった。資料と言う名の各々のマンガが常に何冊か陳列されており、たまに部員以外の人が読みに来ることもある。もちろん部員の友人であることが条件なのだが、誰とも特に親しいわけじゃないと思しき男子生徒が先客として座っていた。
 公子の持ってきている少年漫画を捲りながら、落ちてきた前髪の束を指ですくって耳にかける。
「花京院?」
「やあ」
「どしたの」
「マンガ読みたくて。ダメだった?」
「うん。誰でもってなると際限なく皆読みに来ちゃうでしょ。部員の友達まで」
「じゃあ今から主人さんとお友達になるってのはどうかな?」
「あはは、案外冗談言うんだね。ま、今日はいいよ」
 公子は別の部員が持って来た日常系マンガを手にし、パイプ椅子に腰かけた。向かい合って座る公子の顔を、花京院がチラリと盗み見る。マンガに夢中になっているらしく、花京院の視線にまったく気がつかない。
 それを確認すると制服の裾から緑色の触手を伸ばし、公子の鞄ポケットに入っている、というより刺さっているだけの状態の携帯電話を抜き取った。鞄は足元にあるのでやはり公子は気がつかない。電源を落とし、山積みになっているマンガの後ろにそれを隠す。
 次いで三十分後、今度は扉の隙間から廊下まで触手を伸ばし、外についている鍵を落とした。この教室、外側に内鍵がついているのは調査済みである。おそらく立て付けの悪い扉をきちんと閉めるためについているのだろうが、このようなものは高校生ともあれば悪用することは容易く思いつく。というよりそういう風に使うことくらいしか思いつかない。
 カタンという音に公子はようやく頭をあげ、振り向いた。
「……?」
 扉を横に引くがびくともしない。まるでパニック映画の主人公のように、開かない扉を引っ張り続ける。
「主人さん?」
「ちょ、やばいよ。閉じ込められちゃった?もう戸締りの時間だったのかな」
「落ち着いて。僕、鞄を教室に置いたままなんだ。電話貸してくれる?」
「うん……うん?」
「うん?」
「うん……ごめんなさい。私も教室に置いてきちゃったみたい」
 斜陽が美しい。きらきらと公子の髪の毛を光らせ、不安そうな顔に影を作る。花京院はマンガを閉じ机の上に置くと、公子の手を取って椅子に座らせた。
「大丈夫。夜間見回りに警備員が来るはずだから、落ち着いて」
「ありがとう」
「……ねえ主人さん。噂で聞いたんだけど、最近恋人と別れたんだって?」
「え。噂になるほどのことなのかな。まあ、その通りだけど」
「さっき僕、君の友達になるって言ったけど、やっぱりそれ恋人に変えてもいいかな?」
「……ごめん。私しばらく、彼氏とかいらないかなーって思ってるんだ。花京院に不満があるとかそう言うんじゃなくて、なんていうか、もうそういうことに興味ないの」
 そんな返答に、花京院は胸中複雑な思いが湧いた。次から次へ来るもの拒まずで男をとっかえひっかえしているのではないという安堵の気持ちと、あの男はよくて何故自分ではダメなのかという怒り。そして何より、
「僕を君のものにしてくれたら、そんな想いは吹き飛ばしてあげるのに」
「……花京院?」
 花京院の骨ばった手がカーテンを引き、光源を失くした室内は薄暗くなった。一瞬の出来事に公子の目がなれるまで数秒かかるであろうその隙に、花京院が視界だけでなく言葉を奪った。
 舌で強引に唇をこじ開け、漏れ出す嗚咽ごと飲み込むように顔を動かして公子を貪る。助けを求めても外に誰もいないことはスタンドで確認済みだが、悲鳴を上げ続けられるのも厄介だ。体で公子の足を押さえつけながら、鞄の中から細長いタオルを取り出す。それを捻って猿轡にし、噛ませる。
「んー!んんん!」
「マンガのキャラクターじゃできないこと、してあげる」
 花京院が読んでいた少年漫画が床に落ちた。表紙の中央に描かれた主人公とライバル役の少年が、身動きを封じられた公子を見ている。
「君の事、恋愛とか興味ない人だと思ってた。興味はあるにはあったんだね。そのときにアプローチしてればよかったなぁって、毎日思ってたんだ。君が、あいつと付き合いだしてからずっと」
 ブラウスのボタンが一つずつ外され、左右に大きく開くと黒いキャミソールが見えた。それを上に引き上げると、ブラジャーに覆われた胸が衝撃で揺れる。ブラウスとキャミが乱れてもリボンだけがあるべき場所に収まっているアンバランスな格好は花京院の欲を更にかきたてた。
「こんなこと出来るの、現実の男だけだよ。それとも元カレにはこういうことしてもらわなかった?」
「んー!んー!」
「あー、返事できないの分かってて聞いてるから大丈夫。君の羞恥心を煽るために言ってるだけだから」
 胸を揉む指が先端の突起を執拗にいじりだした。今までパニックから暴れていた公子の動きは、やがて内腿を擦り合わせるようなじれったさを持て余すような動作に変わる。
「僕が下をいじらないのが我慢できなくなってきた?僕もだよ」
 スカートの中の手が下着を弄る。それを下ろすと空気に触れることが怖いのか、公子は足を固く閉じてしまう。そこに、花京院の熱があてがわれる。愛液で濡れるそこと太ももで扱くように、花京院は自身を差込み腰を前後に動かし始めた。
「して“あげる”って言ってるのに、自分ばかり気持ちいいことしてるって思わない?さすがにここから先は主人さんがお願いしてくれなきゃするのはマズイんじゃないかなって思うんだ」
 公子の後頭部にあるタオルの結び目を引っかくように指を動かすと、ヨダレまみれになったタオルが落ちた。
「か、きょ……」
「うん?」
「ぬ、抜いて……」
「……ああ。うん。じゃあ君“で”抜くよ」
「え?」
 言葉と裏腹にすっかり準備のできたそこに、体の中に、今度こそ差し込んだ。太もものすべすべとした触感とは違い、自身に絡む凹凸のある暖かな感覚に、花京院のモノは更に質量を増す。
「そういう、意味じゃ……はっ……な」
「分かってるよ。分かってやってるから大丈夫」
「だって、さっき、こんなことまずいって……」
「思ってたら最初からやるわけないでしょ。あ……そろそろ、出そう」
「ぬ、抜いて……いや、外に出してっ!」
「あはは、そうだね、さすがに、中は本当にマズイからね……だって主人さん今日危険日でしょ?」
「え?なんで……」
「見てたら分かるよ。ずっと見てたからね。ずーっと……」


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