小説 | ナノ

 承太郎たちの通う高校は校則が緩い。一応あるにはあるのだが守っている生徒のほうが少なく、制服改造、髪型髪色、女子はメイクまで、容姿を見ればそれはすぐに分かる。公子はその中でも比較的校則に忠実な生徒であったが、最近スカート丈が短くなってきて、ついに化粧にも手を出したようだ。
「今日のアイメイクどう?」
「ライン薄くない?」
「これ以上やったらけばいかなーって」
「ううん。最初だから加減が分からないと思うけど、もう少し乗せてもいいと思う」
 承太郎はそれに少しだけ気を悪くしていた。可愛くなったと思うの半分、周囲の男子が公子を見る目が変わって何だかイラつくのが半分。後者の気持ちがちょっとだけ上回っていると言ったところか。
 元々公子は男勝りなところのあるサバサバした女子だった。承太郎も自分の周囲で騒ぎ立てる女と違って公子はやかましくない付き合いやすいタイプだと思っている。が、最近は騒ぎこそしないがなんとなくその周囲の女子と同じ雰囲気を感じてしまうのだ。
 遅い思春期と言ってしまえば納得はいくが、幼馴染が変わっていく様子に承太郎は困惑していた。
(俺が言うなよって話だろうが)
 逆に公子こそ承太郎の変化に驚いた。高校入学までは好青年だったアレがコレである。自分もこの数年の変化はすさまじいという自覚はあるのだが、それを周りがやるとこんなにも驚くとは思わなかった。
(あの公子が色気づくたぁな……)
 最初はそれを、マンガに影響を受けたからだと思っていた。少女マンガを読み、恋を知識だけで知り、浮かれてメイクを覚えたのだと。

「服どうしよーっ」
「かぶらないようにしとこうか」
 女子のおしゃべりを断片的に拾い上げ、つなげてみると、どうやら公子たちは数日後に合コンに出かける予定らしい。といっても高校生同士のものだ。他校の男子数人とグループになって遊びに行くといったほうがいいだろう。
 だが目的としていることは大人と大差なかった。つまり公子が、男を漁りに行く約束をしているということだ。
(冗談だろっ!)
 その休み時間が終わると、教室から承太郎の姿が消えた。どうせいつものサボりスポットで昼寝でもしにいったのだろうとクラスメイトどころか教師すらも気にしていないようだ。普段のサボりグセがこんなところで役に立つとは思わなかった。
 承太郎は屋上でも温室前ベンチでもなく、公子の自宅前へ訪れていた。暴走しているスタンドが既に姿を現し、今か今かと到着を待っている。いつものカーテンの色が見えると、そこを目掛けてスタープラチナが浮遊した。
 今朝慌ててメイクしたのか、机の上には化粧水やら乳液やらが出しっぱなしどころか、丸めたティッシュと綿棒もゴミ箱という定位置に入らずに転がっていた。スタープラチナはその机の引き出しを開けずに直接中身を確認する。
(この俺が空き巣の真似事か……変わったよ、本当に。俺も)
 公子に秘密の日記があることは幼いときに聞いたことがある。それを開かねばならないと思ったのは初めてだ。案の定カギのかかった引き出しの中に入っており、スタープラチナが指の形状を変えて簡単に開錠する。
 現れた古めかしい表紙のノートをめくると、数ヶ月前から他校生の男子が気にかかっていること、部活動を通じて友達が紹介してくれたことが綴られていた。
(……そうか)
 今までの人生で承太郎が精神的に動揺したことは数える程度しかない。そのほとんどが、エジプトへの道中で起こったことだ。最初は眉間から血を流すアヴドゥルを見つけたとき。目の前が真っ暗になって奈落へ落ちていくような錯覚を覚えた。まあそれはすぐに杞憂になったのだが。
 それからポルナレフの魂がコインになったときもそうだ。脈のないポルナレフの体に驚きはしたが、まだ命を取り戻す方法があると分かった瞬間その動揺は吹き飛んだ。花京院が人形になったときも一瞬焦りはしたが、すぐに取り戻してやるとすぐに前を向くことが出来た。何より最大の動揺は、もちろん母の命が危機に瀕していると知ったときだが、どれもこれも取り戻す方法が分かった瞬間、承太郎は前を向いて立ち直ることが出来たのだ。
(そうだ。取り戻しゃいい。アイツは、俺の、だ)
 ずっと見てきた。幼い頃から、今まで。そして他校生の男子どころか、親も友人も知らないようなことをさえも自分は知っている。だからこそ、
(あいつを愛していいのは俺だけだ)
 そう思うのだった。


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