小説 | ナノ

 覗く。それは甘美な蜜で蜂や蝶を誘う花のような妖しい匂いのする行為。人に見せないという前提の姿を、実は自分が知っているのだという優越感と、いつも外面しか見たことのない他人という生き物が自分と同じ自堕落な姿をしていたのだと知ったときの安心感。そういったものを一度満たしてしまえば、次にそれが乾いたときに強烈に欲してしまう。麻薬と同じだ。
 公子が強風からスカートを守るためにさっと手をあてがう。だがどれだけ守っても、既にその中身を承太郎は知っている。他の女子も同じように手や鞄で押さえつけるが、もちろんその中の色は未知の部分だ。知っているのは公子の中身だけ。
 彼女と秘密を一方的に共有している満足感と、バレていないと思っている安心する顔の可愛らしさに、承太郎は内心ほくそ笑んだ。

 スタンドが暴走したあの日以来、毎日とはさすがに言わないが、月に何度か公子の自宅付近を訪れることがあった承太郎。そこに来るのは、スタンドと同じように、自分の理性も暴走しているときだけだ。
(俺だけが知っている。公子の下着の色も、サイズも、そしてそのサイズを気にしてるのか、最近メジャーで計っていることも)
 何も身につけていない胸を間近で見た身として、それは発育の遅さに悩んでいるのではないようだ。
(逆に、大きすぎるのも辛ぇな。俺もやたらと周囲が小さくなっていくような時期があったからまぁわからんでもない)
 今でも周囲が小さいことに変わりはないが。
(お前の悩みに気づいてやれるのは俺だけだ。お前を気遣ってやることが出来るのは、俺、だけだ)
 覗きとは蠱惑的な悪魔の化身だ。承太郎はそれに蝕まれる自覚がありながらも、身も心もその手に委ねていた。覗きそのものの快楽だけではない。このまま彼女のことをもっと知り尽くせば、この世で彼女を愛寵する資格を持つのが自分だけになるのではないかという、まやかしの幸福に追いすがっている面もあったのだ。
(ブラウスのボタンがきつそうだな。女子は前を二個以上開けられないからな)

 逆に、覗かれるというのはどういう気持ちだろうか。恥ずかしい、恐ろしい……少なくともいい感情ではない。覗いている連中が何をと思うだろうが、もちろん自分は覗かれたくない。承太郎とてそうだった。
(こういうとこをよぉ……見られるなんざ……)
 そう思いながら、人には決して見せられない格好と体勢で手を上下に動かしている。
(いや、しかし、見たらどう思うんだ?男の一人でしてるところ……それも、自分のことをオカズにしながら、だ。アイツの日ごろのリアクションなら……)
 赤面して硬直する顔を妄想する。その目が自分のモノを捕らえていると思うだけで興奮は一層高まる。
(きっと泣きながら拒絶するだろうな。だがよぉ、そりゃお前の“表”の顔だ。俺は知ってるぜ、お前が性に関して初心なわけじゃないことをな)
 公子の部屋の本棚を埋めるのは、少年・青年マンガをはじめとする本ばかりで、最近ようやく女性誌や少女マンガが現れたばかりだ。その中に、公子が何度か読み返している雑誌のコーナーがあるのを承太郎は知っている。
 それは自分達と同年代の少女が赤裸々に自らの性体験を語った読者投稿コーナーで、それを恥ずかしそうにしながらも何度も読んで何か思いふけっている姿を承太郎は知っている。
(してぇんだろ、本当は。見てぇんだろ、俺たち男のこういう姿をよぉ)
 覗かれるのは遠慮したいが、見せ付けるのは、ありかもしれない。もしもこの部屋に今公子が訪れたら、きっと、
(好奇心が勝って、触るだろうか)
 そうなったときの妄想がリアルに思い浮かぶ。公子が恐る恐る触れる指先の感触があったと思い込むと、承太郎は簡単に果ててしまった。
 ティッシュで押さえ込んでいたものを綺麗にふき取り、下着と服を全て直す。部屋を出て手を洗えばもうそんな痕跡はない、クールで硬派な不良の空条承太郎だ。部屋のゴミ箱以外に、証拠を持つものはいない。


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