小説 | ナノ

 カイロ国際空港ロビー。新しい義足をつけたイギーとアヴドゥルが見送りにやってきた。イギーはしばらく足の経過をエジプトで見て、それからどこへいくのかを考えるようだ。人間が色々考えたところでイギーがそれに従うとは思えなかったが。
「アヴドゥル。出発まで少し時間があるから土産買いたいんだけどちょっと付き合ってよ」
「あぁ、構わないよ」
「じじぃも、ばあさんに何か買ったほうがよくないか?」
「うっ……それもそうじゃな。よし、承太郎。お前もついてこい、何買うか決めるぞ」
「アヴドゥルと公子といけばいいじゃねぇか」
「いいからこいっ」
 半ば引き摺られるように承太郎は反対側の通路へつれてこられた。こちらは飲食店街のようで、残った現地通貨を使いきろうとしている人々で賑わっていた。
「おい、こっちじゃねぇだろ」
「まぁまぁ。あまり邪魔をするのも悪いと思ってな」
「?」
「ありゃ公子はきっと告白するつもりだろうな」
「はっ!?」
「いやー、アヴドゥルは見た目どおりの堅物じゃからの。知り合って数年になるが女性関係の話はまったく聞こえてこなかったがこれであいつも落ち着……承太郎?どこいった?」
 まぁトイレにでもいったのだろうと思い、ジョセフは近くの飲食店のメニューを眺めて時間を潰していた。
 公子は結構態度に出ていたようで、観察眼鋭いジョセフと花京院は公子がアヴドゥルに特別な好意を寄せていたことは何となく分かっていた。だが普段からポーカーフェイスの承太郎の気持ちに気づいているのはメンバー内に誰もいない。承太郎が公子を探して空港内を走り回っているとは、ジョセフは思ってもいなかった。

 承太郎が二人を見つけたのは、熱く抱擁しあっているときだった。呼吸が止まる。二歩後ろに下がって柱の影に隠れる。
 趣味が悪いと思いながらも、巨体を少しだけずらして二人の方を見る。もう二人は離れており、最後に固く握手をした。公子の土産の袋をアヴドゥルが持ってやり、二人は皆が待っているラウンジに戻っていった。
(あそこで握手ってことは……告白したかどうかはわからねぇがどっちにしろ仲間としての絆を確認しあったってことだよな)
 もし告白していい返事だったならキスの一つでもするだろう。
(いや、ここは結構人通りがあるし、何せアヴドゥルがこういう場所でそれ以上のことをするのは考えにくい。だからって恋人になったのなら握手はねぇだろ、握手は……)
 しばらく悶々としていたが、日本が近づくにつれ回復した母の顔を見たいという気持ちの方が強くなっていった。
 それは公子も同じで、改めてよき友人となったアヴドゥルへの感傷は、感動の親子の対面を見ると薄れていった。
「さて、このあとは花京院くんの家へ頭下げに行かないとだな」
「そんな!大丈夫です、僕の家のことは僕がなんとかします」
「そういうわけにもいかないでしょ。きちんと大人がついていましたってことを証明しなきゃだし、実際に未成年をつれまわしていたことには変わりないからね。ジョースターさんは今連れ出すのはかわいそうだし、ここは私がやっとくよ」
「ダメです。僕の家にはほとぼりが冷めるまで案内しません」
「公子、花京院の言うとおりだ。俺達はもうガキじゃねぇんだ。テメェのケツはテメェでもつ」
「ガキじゃねぇって……ガキだよ、未成年クン」
 そうだ。公子は花京院や承太郎を一人の男性として見たことはない。大事な仲間という意味では全員を全員同じように思っていた。だがアヴドゥルだけはそれに加えて一人の男性としてみていたのだ。
(確かにアイツは俺らより一回り近く年上だし、性格的にもしっかりしてるが。年齢でそういうもんが決まるわけじゃねぇ。二十歳の誕生日を迎えた瞬間大人になるのか?そうじゃねぇだろ。俺ぁもう一人の男だぜ)
 感動の再会ではあったが、スージーがジョセフを責め立てる声が大きくなり始めた。承太郎はさっと公子と花京院の手を引くと廊下へ出た。
「花京院、コイツは俺が足止めしとくからお前も一回家帰れ」
「あ、あぁ」
「ほら、公子こっちきやがれ」
「ちょちょ、承太郎痛い!」

 五十日ぶりの自分の部屋。扉を開けると中の淀んだ空気が一気に吹いてきた。ベッドの上に座れと促すと、窓という窓を開け放つ。
「あのね、承太郎。花京院くんは確かに自分の意思で同行してくれたわけだけど、彼のご両親からす……」
「花京院の話はいいだろ」
「いやよくないよ。その話をしにきたんでしょ」
「部屋で二人きりになって、別の男の話をしたがるヤツがいるのか?」
「……?」
 気づかないふりはしたが、少しいやな予感もしているのだろう。公子は言われるままにベッドの上に座っていたが、とりあえずこの場所はまずいと思い立ち上がる。だが承太郎の手で肩を軽く弾かれるとバランスを崩し、そこに大きな体が覆いかぶさった。反動で承太郎の頭からはトレードマークの学帽が脱げ落ち、公子の胸元に学ランの鎖が当たっていた。
「なぁ。空港でアヴドゥルと抱き合ってたのは何でだ?」
 せっかく一旦封印していた苦い思い出を強制的に穿り返される。公子の表情が歪んだのを承太郎は見逃さなかった。
「ふられたか?」
「うっさいなあ!イケメンにはこの気持ちわかんないだろうけどね!もうちょっと気を使いなさいよ!」
「いいや、わかるぜ。現在進行形でその気持ちを味わっている」
 ここまで言われて、もう気づかないふりはできない。だけどハッキリとお前が好きだとは決して言わない。言われなければ拒否できない。
「と、とにかく一旦どいて。ジョースターさんとこに戻るよ」
「いいや。俺の話も聞いてくれよ」
「聞くから体制をなんとかして。これじゃ落ち着かない」
「いやだね。この体勢のまま聞きな。あの旅の間、どれほどお前を意識していたかを」
 あの旅は命を救う旅であり、人類の敵を討伐する旅であった。人命に関わることだから皆そういった浮かれた感情を面に出すことはなく、湧き上がってきたとしてもジョセフの顔を見れば理性がなんとか押し留めてくれた。(ポルナレフ除く)
 それが、DIOの塵芥と化した姿を見届けたことと日本からの回復の連絡で一気に決壊した。芽生えていた気持ちは花が咲くのを待つ膨らんだ蕾のように、想いを告げたくてたまらなくなった。これからしばらく、海を越えて離れ離れになるのだから尚更。だからこそ承太郎が急に積極的になるのも分かる。分かるのだがそれを許してはいけない理性が公子にはあった。
「あのね。ふられた身とはいえね、好きじゃない男性にこういうことされて嫌悪しない女性はいないよ」
「それは今まで俺のことを男として見てなかったからだ。今までは旅に支障が出ないように顔にも一切出さずにいたつもりだぜ。お前もそうだろ?」
「後半には同意するけど……」
「好きじゃない男性だってのも、友人としては俺のこと好きなんだろ?本当に俺をなんとも思わないなら、いちいち動揺しないはずだ」
 顔がゆっくりと近づく。キスされるのかと思い公子は顔を逸らすも、承太郎の正面に公子の耳が向く。耳に吐息がかかるまで近づく。
「お前はアヴドゥルにふられて気持ちにケジメをつけようとしてるが、俺はまだ気持ちは伝えねぇ。もっと俺を意識させてからだ」
「っ!スタンド使うよ!?」
「耳が弱点か。まぁ、これで嫌でも俺のこと未成年クンだとは思わなくなったろ?」
 承太郎が立ち上がり、公子を解放した。耳を押さえながら顔を真っ赤にして俯く。
「俺のターンはこれからだからな。俺はまだふられちゃいねぇ」
「ここまでやっといて伝えねぇって……まったくどこでそういう駆け引き覚えてくんのよ、最近のガキは……」
 ぼやくように言った公子の言葉に、承太郎はフッと笑った。
「違うね。ガキじゃねぇから知ってるんだぜ」


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