小説 | ナノ

 敵のスタンド攻撃は、人を昏睡状態に陥れるものだとその場にいる誰もが思った。軽く触れただけで公子は意識を失い、力の抜けた身体は地面に崩れ落ちる。咄嗟のところでジョセフが茨で身体を支えてやりかすり傷程度で済んだが、問題は意識の方だ。
「スタンド使いをなんとかするしかない!」
 だが不意打ちで公子の意識を奪うことは出来たが、残り全員と正々堂々やり合うのは分が悪すぎる。相手もそう考えたのだろう。さっと踵を返し、人ごみの中へまぎれていった。
「わしと承太郎とアヴドゥルは追跡、花京院とポルナレフは公子を頼む!」
「ずりぃ!俺も!」
「ま、待てポルナレフ!相手がこっちに戻ってきたらどうするんだ!彼女をかばいながら僕一人で戦えと言うのか……あぁもう。相変わらず話を聞かないな!」
 一人ぼやきながら、花京院は公子の身体を持ち上げホテルへ向かった。
「しかし、触れただけで意識を飛ばすスタンドか。まぁアヴドゥルさんがいるから近づかなくても大丈夫だろうけど、不安だな」
(違うよ花京院!意識を飛ばすんじゃなくて、幽体離脱させるスタンドなんだよおおお!)
 抱き上げられたの肉体の側に、魂だけの存在となってしまった公子が飛び回っていた。どうも肉体からあまり遠くへはいけないようだ。
 後にジョースター一行は魂を抜き出し、コインや人形に封印するスタンド使いと合間見えることになるのだが、その抜き出した魂を放置されているような状態というところか。

 ホテルの室内に電話のコールが響く。仮眠を取っていた花京院は目を覚まし、警戒のために張り巡らせておいたハイエロファントを解いてそれに出る。
「ジョースター様より外線でお電話が入っております。お繋ぎいたします」
 時刻は夜九時を回ったところだ。ほんの数分眠るつもりが、思った以上にぐっすり寝てしまっていたようだ。
「花京院かー!公子はどうじゃ」
「相変わらず意識不明のままです」
「む。こちらは今例のスタンド使いに能力の解除方を聞いているところなんじゃがな。なかなかに口を割らんもんで承太郎が殴ったところこっちも気絶したようでな。まぁ、もうすぐ公子も目を覚ますはずだが、そっちに戻れるかどうかが微妙な時間になってしまった。逆に明日、花京院と公子がこっちに来た方がよさそうだが、大丈夫か」
「分かりました。あ、ポルナレフそちらにいます?」
「おお。おるぞ」
「あとでポルナレフも殴っておいてほしいと承太郎に伝えてください」
 電話の内容は公子にも聞こえていた。魂だけの存在なものだから、花京院に重なるようにすれば受話器からの音がバッチリと聞こえてくる。耳のある肉体はベットに横になっているはずなのに、なんとも不思議である。
(とりあえず、なんとかなりそうだな。よかった)
 花京院は通話を終えるとルームサービスを注文し、料理が来るまでの間にシャワーを済ませる。公子も腹が減る感覚はあったが、食事できるようになるまではまだかかりそうだ。
 美味そうに食事する花京院をうらやましげに見ながら、公子はポルターガイストを引き起こせないかと模索してすぐに諦めた。暇潰しにテレビが見たいと思ってテレビに向かって念を飛ばしてはみたが、反応する気配は一切ない。

 食事も風呂も終えると、花京院は洗面所でなにやら作業を始めた。幽体状態でそちらの方までいくことは適わないようで、公子は扉近くまで移動して中の様子を耳で探った。
 水を流しているようで、その音が途切れると布を絞る音が聞こえた。外に出てきた花京院の手には、ホテルの備え付けのフェイスタオルが固く絞られた形であった。それを広げ、たたみ直してからベッドへ腰かける。眠っているような公子の顔にかかった前髪をそっと払いのけると、幽体の公子の額にもくすぐったい感覚が走った。
 花京院はタオルで顔を拭ってやるようだ。しかしそれだけのことなのに間近で見つめられると恥ずかしいものがある。
(あ、そういうの、大丈夫だよ、しなくて、えっと、えっと……うわああ。通じないもんなぁ。どうしよう。どうするもなにもどうしようもないんだけどさぁ……)
 スタンドを出そうと何度か試みたが、うまくいかない。今度は花京院の隣で公子の身体をじっと見つめるハイエロファントの前で手を振ったり変顔を作ってみたが反応がない。
 腕、足と、露出している肌を全て拭き終え、ようやくこの恥ずかしい介護のような時間が終わるのだとほっとしたのもつかの間、タオルを握ったまま花京院がベッドの上から離れようとしない。じっと公子を見つめたまま微動だにせず、かと思えば目の焦点が合わなくなった顔をしたり。しばらく何かを頭の中で考えていたのだろうが、その結論は服の下も綺麗に拭くべきという答えだった。
(あぁ、昨日無駄毛処理しててよかったぁ……じゃないっ!違う!全然だめ!)
 ブラウスのボタンが全て外され、中央から左右に布が開かれる。フリルのついたキャミソールの上半身を見た花京院が生唾を飲み込んだのが分かった。
「公子さん……戦ったから、汗、かいたでしょう?」
(いやぁ、汗かく前に気絶しちゃったもんですからさっぱりですよー。今日ロクに運動してないですよー)
「綺麗に、してあげますから」
 キャミソールが花京院の手の動きに合わせて膨らむ。だが腹から上へタオルを移動させるには、どうしてもワイヤーの段差が邪魔だった。
「……苦しくないですか?」
 返事がないのをわかって問いかけると、その答えを自分の脳内で勝手に導き出し、花京院は公子とベッドの間に手をもぐりこませた。片手では難しいのか、しばらく抱きつくような体勢のまま動かない。結局ハイエロファントを使ってホックを取ると、下着ごとキャミソールも捲り上げた。何も覆い隠すもののなくなった公子の上半身を見て、花京院が笑う。いや、にやける。
(終わった……)
 成長してから異性に見せたことのない、見せるべきではない身体の一番奥をまじまじと見つめられ、公子は気絶した。幽体なのに気絶するというのはおかしな話かもしれないが、とにかく意識を再度失った。

 電話の音がする。そう、この音は昨日も聞いた。
(昨日?あれ?今何日だ……)
 公子が目を覚ますとカーテンの間から朝日が差し込んでいた。鳴り続けていた電話には花京院が出たようだ。
「あ、いえ、今起き上がりました……公子さん、大丈夫?」
「ん?うん」
「目が覚めたようです。はい。返事もハッキリしました」
 花京院側の話を聞くだけで、相手がジョセフだということは察しが着いた。
「花京院、昨日何か襲撃にあったりせんかったか?」
「いえ?何故ですか?」
「いやな、敵スタンド使いが公子を起こす方法は強い衝撃を与えることだと言っておったからな」
「……そ、そうなんですか」
「どうかしたか?何か思い当たる節があるようだな」
「いいえ。なんでもないです!じゃあ、予定通り僕らがそっちへ向かいますので」
 二人は身支度を整え、今日の天気をニュースでチェックすると外へ出た。食事は移動しながらとる。
「あの、公子さん」
「ん?」
「気を失ってる間……意識ってありましたか?」
「へ?」
「あ、日本語おかしいですよね。違うんです。えっと……その、昨日のこと、覚えてるんでしょう?」
(ど……う答えれば……)
「公子さん?」
「具体的に言うとどういうことを覚えてるか聞きたいの?」
「えっと、ホテルに戻ったあとからです」
「……起きたら今朝だったよ。花京院君が運んでくれたんだよね。ありがとう」
「あ、いえ」
 あれらを覚えているとは言えなかった。今後の道中、不穏な空気を持ち越したくない。
(覚えてないのか……)
 だがそれは半分はウソではなかった。確かに胸部が露になるまでの経緯は全て覚えている。が、その先のことは気を失っているのだから覚えていないという言葉も事実だ。
(覚えてないのか。よかった。だけど、次の生理が来ないかもしれない。発覚しないとは言い切れない)
 花京院は公子の身体に視線を落とした。
(でもそうなったら、責任は取ります。そうならなくても、ですけど)


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