小説 | ナノ

 東京都目黒区、SPW財団日本支部。スタンド使いの身体データが欲しいと頼まれたジョセフは、アルバイト代をやるからと花京院にそれを依頼した。承太郎はサボり癖があるのでそこのところは信用できないらしい。
 財団にはエジプトへの道中随分と世話になったからと花京院はそれを喜んで引き受け、放課後は財団へ毎日立ち寄るようになった。
 だが契約期間の一ヶ月を過ぎても、花京院は何かアルバイトはないかと財団へ向かう足を止めようとしなかった。そんなに金に困っているのならDIO討伐の謝礼と言う名目で何でも買ってやるぞというジョセフの申し出を辞退し、財団に通う理由を必死に探す。
 別に欲しいものがあるわけでも、貯金をしたいわけでもない。データ採取の担当の一人、主人公子という十歳も離れた女性に恋をしてしまったからだ。

 十二月前半。雑用でもなんでもいいのでと引き受けた書類整理のために財団を訪れた花京院。オフィスに入ってマフラーをとっていると、今日は誰もいないことに気づく。
 しかしデスク上のディスプレイは電源が入っており、折れ線グラフやらバイタルのような何かの図が映し出されていた。
 向かい合わせになるように繋がっているデスクの手前から二番目が公子のデスクだ。他の女性所員と違って飾り気のない仕事関連のもののみで埋め尽くされたデスクの中央を陣取るディスプレイに、珍しく仕事と無関係のページが開いていた。
 日本語と英語の混ざった文章から、最初は本部への報告書かと思ったがそれにしてはフォントが華美だ。よく見るとそのPDFファイルには

TERRINED'ANGUILLEAUXST.JACQUESETHOMARD
仏産ウナギのテリーヌ帆立貝とオマール海老のムースと共に

とあった。
(メニュー?)
 そこに扉が開いて席の主が戻ってくる。ディスプレイをガン見する高校生アルバイトくんを見て焦った顔をした。
「これこれ、人のデスクをじろじろ見ないの」
「あ、すみません。でも珍しいですね。公子さんが会社のPCで私的なことを調べてるのって」
「うー……だって今月はクリスマスがあるじゃない。私一日の楽しみが食事しかないからね、こういった豪勢なモノを食べる言い訳が出来る日なのよ、25日は」
 その言葉を聞いて、花京院は今まで胸につかえて聞き出せなかった疑問をさらっと口に出した。今の流れは、チャンスだ。
「一緒に食べに行く人がいるんですか?」
「そーなのよっ!フレンチとか食べに行きたいんだけど周りがカップルだらけの中一人でご飯とか惨めやらみすぼらしいやら恥ずかしいやらだし、だからと言って付き合ってくれる女友達もいないの!どうせまた25日といえどホルモン焼きでも食べて終わるのよ」
 つまり、彼氏はいない。
「このお店、代官山のとこですよね。ここは料理もいいですが暖炉のある店内装飾もまたいいんですよね。暖炉でお肉焼いてくれたり」
「行った事あるの!?あー、いいなぁ……暖炉のお肉……」
「公子さん、よかったら、僕と行きませんか?僕、今は学ランでここに来ているから子供っぽく見えるかもしれませんが、当日は公子さんに恥をかかせない大人の正装で来ますから」
 一世一代の、ともいえるほどに勇気の必要な発言だった。それは花京院自身も思ったし、少し顔を背けながら緊張した面持ちの彼の顔を見た公子もそう思った。
 その告白に「はい」と答える理由はお膳立てされているようなものだ。ずっと行きたかった店のクリスマス限定ディナーを食べに行くには、彼を連れて行くしか今のところ方法がない。別に花京院がどうこうではなく食事のためなんだと言えば簡単にうなずくことが出来る。しかし、公子はそれを躊躇った。躊躇って出来た一瞬の間が、拒否の返答へと導いていく。
「いや、やっぱり未成年の前で一人だけワインあけるわけにも行かないよ」
「僕だって多少飲めますよ」
「未成年の飲酒は法律により禁止されています」
「クリスマスなんですから、多少はめを外しましょう」
「クリスマスははめを外すいいわけを作ってくれる日じゃないわよ」
「スーツだって持っています。二人分のディナー代とボトルを開けるくらいのお金だってあります」
「私はそれを一週間くらいしちゃえるほどお金があるからそういう問題じゃないの」
「僕は、あなたとクリスマスを過ごしたい……こう言っても、ダメと言いますか?」
「ずるいなぁ」
 苦笑する公子を見て、花京院は自分があくまでもバイトの高校生としか見られていないのだと痛感した。同時に、強引に押し切ればいけるとも。
「約束ですからね。当日、僕が迎えに行きます」

 翌日、銀座の紳士服店で採寸する花京院の姿を見かけてしまった公子は、またしても苦笑してしまった。
(昨日は一瞬びびっちゃったけど、やっぱ高校生だなぁ)


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