小説 | ナノ

「そういえば前買ってたストラップ、つけてないの?」
「うん。机の引き出しに眠ってる」
「買ったばかりなのに?」
「……グッズを身につけるわけにはいかないの」
 恋人らしく、一緒に下校する二人。協約を結んだあの日の翌日から二人のことは噂になっており、花京院の目論見どおり喧しく騒ぎ立てる女子は周囲から一掃できた。では公子のメリットとは……?
「ウチ、ここ。送ってくれてありがとう」
「恋人、だからね」
「あはは。そうだった。それじゃあ、また明……」
「公子、おかえり」
「あ、お姉ちゃん。ただいま」
 玄関から出てきたのは公子を垢抜けさせたような女性だった。同じような顔のはずなのに、女の子と呼ぶのは憚られる、大人びた雰囲気を持つ。
「……アンタ、ついに人間の彼氏できたの?」
「公子さんとお付き合いさせていただいています、花京院典明です」
「姉の主人エミリです。礼儀正しい方ですね。公子は抜けてるところもありますのでよろしくお願いします。じゃ、アタシ出かけるから」
「いってらっしゃい」
 姉は原付を走らせ市街地へ向かう道へ消えていった。
「人間の?」
「あ、いや。あの、私が実は二次元にしか興味ないっての、内緒でオネガイシマス」
「え!?」
「え。あー、そっか、言ってなかったか。まあ言う必要もないようなことなんだけどね。周囲が現実を見なさいってうるさくて、グッズとか持ってるとお説教はじめちゃうからさ。だから彼氏ができたってことにしとくと、私も苦労しないわけ」
「助かるって言ってたのはそういうことなのか」
「そそ。それじゃあ、またね。バイバイ」
 玄関扉がパタンと音を立てた。内鍵をかける音が、二人を分けるように鳴った。
(二次元にしかって……あんなのネットのネタじゃないのか……)
 花京院だってゲームをやっていれば気に入った女性キャラクターくらい出てくる。使いやすいとか、ステータスが高いとか、そういう意味でもあるが、好みの顔立ちや服装という意味でもキャラクターを好きになる。だが、それとこれとは話が別だ。
(大体僕はゲームやアニメで好きになるキャラクターって、どっちかというとお姉さんみたいな落ち着いた雰囲気のキャラだけど、現実は全然違うし。でも主人さんは、きみがくのキャラクターみたいなのが好きなのかな)
 公子の自宅の最寄り駅につくと、そこから定期で電車に乗る。この時間帯はまだ座席に余裕があり、両隣に誰もいない席につくとスマホをいじりだした。
 検索サイトの窓に“きみがく”と入力し、エンターをタップする。
(……誰が好きなのか、今度聞こう)


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