アリスドラッグ | ナノ


▼ 初めての夜(1)



 夜になり、ロランは寝室で落ち着けないでイライラとしていた。

 寝室には――ロラン、一人だけ。エルヴェはあのあと、宝物庫から逃走してどこかへ行ってしまった。「夜には戻ってくる」と言っていたが……なぜ、自分は律儀にあんなやつのことを待っているのだろう。というか、なぜこの俺が待たされているのだろう、とイライラしていたのである。

 もう、今日連れてきたナギという少年を部屋へ連れ込もうか。そう思っていると、窓からコンコンと音がする。ロランは舌打ちをして、窓を乱暴に開けた。


「おい、貴様。ふざけるのも大概にしろ」

「何が? 約束どおり、来たでしょ?」

「遅い! この俺を待たせるとはどういうつもりだ!」

「待っててくれたんだ! 嬉しいなあ」

「……チッ」


 エルヴェはパアアっと表情を咲かせて、ロランに抱きついてきた。ロランは「おい」と怒鳴りながらエルヴェを引き離す。


「貴様、一体なんのつもりだ。何が目的なんだ」

「なあに? 待っていてくれたのに……今更そんなことを聞く?」

「答えろ!」

「……」


 エルヴェは「うーん」といいながら視線を漂わせる。その仕草があまりにもわざとらしいものだから、ロランは余計に苛立ちが募るばかりである。


「べつに特別な理由なんてないよ。王子様とのセックス、面白そうだなあって思って」

「そんな馬鹿げたこと言うの、貴様が初めてだな」

「そう? ははっ、まあ、きみは乱暴者だからね。みんなきみを恐れている。獣の王子様」

「そんな俺を、どうして貴様は」

「興味本位だって言ったじゃん」


 エルヴェの真意が読めない。

 ただ、この男に深入りする必要性などない。身体を貪り、飽きたら捨てればいいだけ。それだけのこと。

 ロランは再び舌打ちを打つと、エルヴェの肩を掴む。そして乱暴に、引きずるように寝台へ投げ込んだ。


「うおっと……おお、すごい。天蓋のあるベッドは初めてだ。さすが、王子様」

「その減らず口……いつまで持つだろうな」


 ロランは寝台に上がると、エルヴェを押し倒した。そして、有無を言わせず彼の服を掴む。ぐいっと彼のシャツをめくりあげて、じろりと見下ろした。


「……?」


 服を乱した途端、エルヴェは黙り込む。視線をふらふらと漂わせて、ロランと目を合わせようとしない。

 エルヴェが急に口数が減ったものだからロランも不思議に思ったが、よくよく見てみるとエルヴェの耳が少し赤くなっていた。


「なんだ、貴様……慣れていると思ったんだが」

「……。い、いやあ……いざとなると、結構緊張するもんだなあと」

「は?」


 何言ってんだこいつは。

 急にエルヴェが恥じらったものだから、ロランも戸惑ってしまった。物は試し、とエルヴェの肌をすうっと手でなぞってみると、エルヴェがビクッと身体を震わせる。

 
「……」

「は、はは……」

「貴様……処女か?」

「しょっ……ないよ、男相手なんてしたことないって!」

「あれだけ威勢がよかったくせにか」

「イケるかなーって思ったんだよ……」

「ほお」


 エルヴェは、異様なくらいに戦いの心得を持っている。だから、いざとなれば抵抗できると考えて、余裕ぶっていたのだろう。しかし――実際のところ、「こういったこと」に耐性はないようだった。それに気付いたロランは、にや……とほくそ笑む。

 ぐっとエルヴェの首を掴むと、顔を近づけた。


「今更、逃がさないぞ」

「……逃げないよ。そのつもりで来たんだから」

「そうか。その態度……いつまで持つだろうな」


 ロランはそのまま顔を下ろし、エルヴェの首筋をベロリとなめ上げた。その瞬間、エルヴェが「ぁっ……」と小さな声をあげる。コレは面白いと、ロランはさらに彼を責め立てる。


「はっ……ぁ、……」

「はは……いい声を出すじゃないか」

「っ……うるさ、……あぅっ……」


 エルヴェの服を脱がしてやる。上半身の服を剥ぎ取り、ロランは身体を起こした。ロランに見下ろされると、エルヴェは視線を泳がせて、腕で顔を隠してしまう。ロランは「ふん」と鼻で息をならすと、グッと腕を掴んで、手を重ねて、シーツに手を縫い付けるように押しつけた。


「隠すな、顔を見せろ」

「……っ」

「おまえが誘ったんだろう……俺の夜伽の相手をすると。俺を満足させてくれるんじゃなかったのか?」


 ロランはゆっくりとエルヴェに顔を近づけて、ぺろ、とその唇をなめる。ひく、とエルヴェは震えて、ぎゅっと唇を閉じた。ロランが「開けろよ」と囁くと、エルヴェは顔を赤くしながらゆっくりと口を開ける。

 きっと、エルヴェは、今ならどんな命令にも従うだろう。「満足させる」と大口を叩いたのだ。このプライドが高そうな性格……今更「できない」とは言えない。ロランもそれを理解したからこそ、エルヴェに意地悪な態度をとってやる。彼がどこまで命令を聞くのか、試したくなったのだ。

 ロランは食らいつくように、エルヴェに口づけをした。エルヴェはビクッと震えながらも、抵抗はしない。ロランがエルヴェの口内に舌を突っ込んでも、「んんっ……」と声をあげるだけで大人しく唇をむさぼられるままであった。

 あのときは、自ら口づけてきたくせに。今はどうだ。どうしようもなく、ロランに唇を貪られているだけ。ひく、と口元をヒクつかせながら、エルヴェはロランのキスに翻弄される。


「ふっ……んん、……んっ……んんーっ……!」


 ぐり、と膝でエルヴェの下腹部を刺激してやる。ロランがそっとまぶたを開ければ、エルヴェの目尻には涙が浮かんでいた。

 ゾクゾクした。

 もっとエルヴェのことをいじめてやりたくなって、責めを激しくしてやる。くちゅくちゅと激しく音を立てながら口内を舌で犯し、彼の身体が揺さぶられる勢いで膝でソコを刺激する。シーツが擦れる音が、エルヴェの耳を撫ぜた。


「あっ……」


 ロランが彼の唇を解放すれば、つう……と糸が引く。エルヴェはとろん……とした目でロランを見上げて、はあはあと息をついていた。


「はぁ……はぁ……王子様……ちょっと、激しすぎ……」

「……まだそんなことを言うのか。エルヴェ」


 ギ、とベッドが軋む。ロランがエルヴェの耳に唇を近づけて、


「今宵は一晩中可愛がってやる」


と囁いた。


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