▼ 盗賊というにはあまりにも
*
ロランがエルヴェを見つけるのは、そう難しくなかった。なぜなら、彼の通ったと思われる場所に兵士がバタバタと倒れていたからである。エルヴェが隠れもせず、正面からこの王城を駆け回っていたという事実が、余計にロランの癇にさわった。
エルヴェがいたのは、王城の宝物庫である。ロランがたどり着いたころには、エルヴェはのうのうと財宝を物色していた。
「ないなあ。やっぱり……。まあ、仕方ない! 今日はこれをいただこうかな。いい金になりそう! ……っと、遅かったね、王子様」
「貴様……そいつを捕らえろ!」
ロランは背後に引き連れていた兵士に、エルヴェの捕縛を命じる。兵士たちは一斉にエルヴェに襲いかかった。
エルヴェはため息をつく。そして、ひょいっと飛び上がると兵士の一人の肩に手をついた。そして、ガッと脚を大きく広げるようにして2人の兵士の頭を蹴り飛ばす。兵士が落とした槍を手に取ると、鮮やかに槍を振り回し、槍の柄を使って兵士をすべて倒してしまった。
「はあ!?」
あまりの出来事に、ロランも驚くしかない。
エルヴェはふーっと息をついて、くるくると槍を回している。
「王子様、いきなり襲いかかるなんて酷くない? きみの姫にさあ」
「おまっ……、おまえ、何者だ!」
「ただの盗賊っていったじゃん」
「ただの盗賊がそんなに戦えるか!」
「そんなに俺のことが気になるの? 嬉しいなあ」
エルヴェはポイッと槍を捨てると、倒れている兵士をひょいひょいと跨いでロランのもとにたどりつく。そして、ロランの胸に飛び込んで、すり……と顔をロランの胸元にすりつけた。
「相思相愛だね、王子様。俺も、きみのことが気になってしょうがないんだ」
「貴様……」
「そんなに俺のことが知りたいなら、少しずつ知っていってよ。ほら……今日の夜、俺のことをもっと知って」
「……」
ロランは無表情にエルヴェの誘惑を受ける。兵士がバッタバッタと倒れているところでそんなことをされても、何の感情もわかないのが当然だ。
こいつは一体なんなんだ……。
その感情しかわいてこないのだった。
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