▼ 「ペリュトン」
*
王城のとある部屋。豪華絢爛とした部屋に、ナギは連れてこられていた。
「姫様。こちらのお召し物を」
「えっと……」
侍女と思われる女性が、ナギにドレスを差し出す。
「姫」と言うが……まさか女性もののドレスを着せられると思っていなかったナギは、呆然とドレスを眺めることしかできなかった。こんなもの着ることができるか、と思ったが、ロランの命令に従わなければ殺されてしまうかもしれない。しぶしぶとドレスを受け取ったが……
「うっ!」
「え!?」
いきなり、女性が倒れてしまった。よくよく見てみれば、彼女の首に細い針が刺さっている。
「大丈夫大丈夫、寝ているだけ!」
「ひっ……!?」
後ろから声がして、ナギは思わず振り返った。いつの間にか窓が開いていて――そこに、男……エルヴェが腰掛けている。
「初めまして、お姫様」
「だ、誰!?」
「盗賊のエルヴェだよ。まあ、挨拶は置いといて。あんまりもたもたしていると王子様が来ちゃうからね。要件だけサクッといくよ〜!」
エルヴェは「よいしょっと!」と声を出して窓から下りると、倒れた侍女のもとへやってくる。そして、彼女に自らが羽織っていたローブを着せたかと思うと、スルッとローブの下からするりと侍女の着ていたメイド服を剥ぎ取ってしまった。
――今のどうやったんだ!?
ナギが驚いていると、エルヴェがメイド服を差し出してくる。
「これ、着て」
「え?」
「きみ、今日の夜伽する必要がないから。俺が代わりに王子様の相手をしてあげる。そのかわり、俺の頼みを聞いてよ」
あまりにも急な展開に、ナギは目が回るようだった。わけもわからずメイド服を受け取ると、エルヴェがにこりと笑う。
「その服を着れば、まあ……メイドとして変装できるでしょ。だから、頑張ってこの城にいる『獣』の情報を集めてきてほしいんだよね」
「獣……?」
「この城には、封じられている『獣』がいるんだって。名前は――ペリュトン。調べてきてよ!」
「い、いきなりそんなことを言われても!」
エルヴェが何を言っているのかわからない。
封じられている獣? ペリュトン? おとぎ話か何かの話をしているのだろうか。
ナギが戸惑っていると、エルヴェはビッ、とナギの首に短剣を突きつけてきた。
「悪いけど、俺の言うことに従ってよ。言うこと聞かないなら殺しちゃうよ? 俺――悪党だからさ」
「……ッ」
エルヴェの瞳は、座っていた。
ナギは怯えながら、コクコクと頷く。そうすればエルヴェは満足したように笑って、短剣をしまった。
正直、面倒なことになったとナギは思う。夜伽の相手をするのも辛いが、わけのわからぬものの情報をこの王城で調べろだなんて……難題すぎる。
「それじゃ、またね! お姫様!」
「あっ……待って!」
ナギが困惑していれば、ピューッとあっという間にエルヴェは部屋の外に出て行ってしまった。ナギは呆然として、倒れている侍女と渡されたメイド服を交互に見つめることしかできなかった。
prev / next