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ギ、ギ、とベッドが小さく軋む。
ホテルのスイートルームにある大きなベッド。二人で寝転んでもまだ余裕があるキングサイズのベッドの周りには、はらはらと服が散らばっていた。
「あっ――、は、……、氷高、……ッ、」
ベッドの中心で、契と氷高は重なっていた。ベッドに埋もれるようにして氷高に抱かれている契は、皆が知っている契とはまるで別人。うっとりと顔を蕩けさせて、氷高の熱を一身に感じているその表情は、氷高しか知らない表情だった。
「契さま……はぁッ……は、なんだか、……感慨深いですね」
「ん、……なんだよ、……あっ……こんなときに、……」
明日は――今年の主演男優賞の受賞式である。
契は俳優として活動しはじめて数年経つが、晴れて、ノミネートされた。
ずっと――ずっと昔、氷高と約束したことがある。すべてを契に捧げると言ってくれた彼のため、彼に相応しい男になると。だから、世界の頂点に立ってみせるのだと。
明日はその第一歩だ。契にとっても、氷高にとっても、とても大切な日だった。
「明日は大事な日だっていうのに、……はぁっ……はぁ、……氷高は、……」
「う、……すみません」
「でも……、ぁっ……俺も……同じ気分だった……」
「契さま……」
「ずっと……この日を追い求めていたんだ……だから、こうしていたい。大切なときだからこそ、氷高と繋がっていたい。氷高……好きだよ」
「――……、」
氷高は少し困ったような顔をしながらも、目を細めた。
幼い頃から、契のことを愛していた。今、こうして、契と共に大切な日を迎えられるようになったこと、契と共に甘い時間を過ごせるようになったこと。彼と愛し合えるようになったこと。それを幼い自分が知ったなら、どう思うのだろう。
こんなにも幸せなことがあるのだろうか。
「契さま……愛しています。世界中の誰よりも、俺が一番貴方を愛しています」
「ふふ……知ってる」
氷高は契に口づけを落とし、契をぎゅうっと抱きしめながら、ゆっくりと腰を振る。
繋がった部分からくちゅくちゅと甘い音がして、そんな音すらも優しいものに感じた。汗ばんだ身体が重なり、熱が溶け合ってゆくことが幸せに感じた。無我夢中でお互いを求めて、二人の時間は溶けてゆく。
「あっ、あっ……あぁっ……! 氷高ッ……、アッ……」
「契さまッ……はぁッ、は、……契さま、……!」
「もっと、……もっと、……氷高……ッ、……もっと……!」
契も自ら腰を揺り動かして、氷高を求めた。必死に氷高にしがみつくその姿に、氷高は目眩すら感じる。淫らな姿も何もかもが愛おしくてたまらない。胸が締め付けられるような多幸感に満ちあふれて、息が苦しい。
「ひ、だかっ……アッ、あ、あ、ああ、ァ、イッ、イ、イク、……」
「俺も、ッ……ん、……俺も、イキそ、……」
「氷高、……このまま、……このまま、……なかに、」
「契さまっ……それは、……ハァッ……」
「いいからッ……氷高ッ……アッ、あっ……――……!」
さすがになかには、氷高はそう思ったが。契がぐいっと脚を氷高の腰に回して放してくれなかった。契のなかがぎゅうっと収縮して、氷高のものを強く締め付ける。
「氷高っ……氷高ッ……あ、ッ……! ああっ……――!」
「契さまっ……!、い、いけませっ……あ、……ッ……」
どく、と熱が震えた。
氷高は頭が真っ白になって、すっかり理性が効かなくなってしまう。契をぎゅうっときつく抱きしめるようにして、契のなかにすべて注ぎ込んだ。契も氷高を抱きしめかえして、氷高の腰を抱き寄せるように腰に回した太ももに力を入れる。
ドクッ、ドク、と氷高の熱いものが契のなかに注ぎ込まれた。ビク、ビク、と震えた氷高の腰に、契は愛おしさを感じる。
「はぁっ……はぁ……」
「……、……契、さま……はぁっ……」
「ふっ……ふふ、切羽詰まった氷高の顔、……好きだなあ……ははっ……」
「はぁっ、はあ……笑いごとではありません、なぜあんなことを……なかに、全部……」
「大丈夫だよ、あとでちゃんとかき出してくれれば……ね、氷高」
「えっ……ええ、……」
氷高はごにょごにょと何かを呟いている。大方、そんなことをしたらまた理性が飛んでしまうとでも言いたいのだろう。
ああ、可愛い。契はそんなことを思った。氷高を抱きしめて、頭を撫でてやる。氷高は黙り込んで、顔を赤らめて……されるがまま、目を閉じていた。