第八幕 4
 年の瀬に開催されるエンターテインメント界の大切な受賞式。その会場は熱気に包まれていた。契は共に映画を制作した仲間と、テーブルを囲う。

 たくさんの関係者が並ぶ大会。きっと、どこかで氷高も見守っているだろう。マネージャーとして? いや、彼自身として。

 
「さて、今年の主演男優賞は誰だと思う? 契」


 契に話を振ってきたのは篠田莉一。かつて契が憧れた俳優のひとり。契は芸能界に入って、今年でようやく、彼と共演することができた。同じ映画に出演して、同じテーブルを囲っているのである。


「さあ。誰でしょうね。ここにいる全ての人が、獲得する権利がある」

「……おお、契くんも大人になったものだ」


 にや〜っと莉一が笑った。彼の言いたいことが丸わかりなので、契は恥ずかしくなってプイッと彼から目を逸らす。

 彼と出会ったころの契ならば「主演男優賞はもちろん俺!」と言った。ナルシズム全開で。しかし、さすがにこの席でそれは言えなかった。今は、なんとか大人らしい振る舞いをしている。契もそれなりに芸能界で揉まれたのだ。オレ様全開で渡っていけるほど、この世界は甘くない。


「契の目標ってなに?」

「え?」


 不意に、莉一が問いかけてくる。

 目標――唐突な問いだな、と思った。

 けれども、目標は決まっている。ずっと昔から変わらない。


「氷高の隣に立つこと」


 そもそもこうして芸能界に入ったのも、氷高のため。彼が望んだのかといえば、そうではないけれど。

 彼は自分に献身した。彼はすべてを契に捧げた。

 そんな彼に報いるほどの存在になりたいと、契は思ったのだ。それが芸能界でトップをとりたいという夢になった。

 けれども。


「へえ、具体的には?」

「具体的なんてないよ」

「じゃあ、永遠に目標叶わないじゃん」

「それでいいんです」


 ――じゃあ、この祭典で賞を受賞すれば終わりなの?

 それは違う。

 ――じゃあ、世界の祭典で賞を受賞したら?

 それも違う。


「俺は、氷高のために永遠に足掻き続けます。どこまでも、走って行きたい」


 彼がすべてを捧げてくれたというなら、自分も彼にすべてを捧げる。

 その方法はわからないけれど、彼のため、がむしゃらにもがき続けてみたい。


「それって重くない?」

「重さならあっちのほうがずっと」

「ん〜……どっちもどっち」


 きっと氷高は言う。「今のままの貴方が好き」と。

 それでも、この道は間違っていないと思うのだ。契が活躍すればするほどに嬉しそうな顔をしている彼。インストでアホみたいに暴れている彼。彼は契が輝けば輝くほどに楽しそうにする。「ほら見ろ、これが私のご主人様だ」と言わんばかりに。

 胸を張って、俺がアイツのご主人様だぞって思えるようになりたい。そのためにたゆまぬ努力をする。


『それでは始まります! 今年のエンターテインメントの祭典!』


 司会が声を張り上げると、ごおっと会場が沸いた。

 同時に、ピリッとした緊張が会場を包む。

 ドキドキと胸が高鳴るこの瞬間は、契は嫌いじゃなかった。


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bkm
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