年の瀬に開催されるエンターテインメント界の大切な受賞式。その会場は熱気に包まれていた。契は共に映画を制作した仲間と、テーブルを囲う。
たくさんの関係者が並ぶ大会。きっと、どこかで氷高も見守っているだろう。マネージャーとして? いや、彼自身として。
「さて、今年の主演男優賞は誰だと思う? 契」
契に話を振ってきたのは篠田莉一。かつて契が憧れた俳優のひとり。契は芸能界に入って、今年でようやく、彼と共演することができた。同じ映画に出演して、同じテーブルを囲っているのである。
「さあ。誰でしょうね。ここにいる全ての人が、獲得する権利がある」
「……おお、契くんも大人になったものだ」
にや〜っと莉一が笑った。彼の言いたいことが丸わかりなので、契は恥ずかしくなってプイッと彼から目を逸らす。
彼と出会ったころの契ならば「主演男優賞はもちろん俺!」と言った。ナルシズム全開で。しかし、さすがにこの席でそれは言えなかった。今は、なんとか大人らしい振る舞いをしている。契もそれなりに芸能界で揉まれたのだ。オレ様全開で渡っていけるほど、この世界は甘くない。
「契の目標ってなに?」
「え?」
不意に、莉一が問いかけてくる。
目標――唐突な問いだな、と思った。
けれども、目標は決まっている。ずっと昔から変わらない。
「氷高の隣に立つこと」
そもそもこうして芸能界に入ったのも、氷高のため。彼が望んだのかといえば、そうではないけれど。
彼は自分に献身した。彼はすべてを契に捧げた。
そんな彼に報いるほどの存在になりたいと、契は思ったのだ。それが芸能界でトップをとりたいという夢になった。
けれども。
「へえ、具体的には?」
「具体的なんてないよ」
「じゃあ、永遠に目標叶わないじゃん」
「それでいいんです」
――じゃあ、この祭典で賞を受賞すれば終わりなの?
それは違う。
――じゃあ、世界の祭典で賞を受賞したら?
それも違う。
「俺は、氷高のために永遠に足掻き続けます。どこまでも、走って行きたい」
彼がすべてを捧げてくれたというなら、自分も彼にすべてを捧げる。
その方法はわからないけれど、彼のため、がむしゃらにもがき続けてみたい。
「それって重くない?」
「重さならあっちのほうがずっと」
「ん〜……どっちもどっち」
きっと氷高は言う。「今のままの貴方が好き」と。
それでも、この道は間違っていないと思うのだ。契が活躍すればするほどに嬉しそうな顔をしている彼。インストでアホみたいに暴れている彼。彼は契が輝けば輝くほどに楽しそうにする。「ほら見ろ、これが私のご主人様だ」と言わんばかりに。
胸を張って、俺がアイツのご主人様だぞって思えるようになりたい。そのためにたゆまぬ努力をする。
『それでは始まります! 今年のエンターテインメントの祭典!』
司会が声を張り上げると、ごおっと会場が沸いた。
同時に、ピリッとした緊張が会場を包む。
ドキドキと胸が高鳴るこの瞬間は、契は嫌いじゃなかった。