第八幕 2


「あー、もう……氷高のせいで大変な目にあった……」

「……11月24日。今日の契さま。〇〇のクレープを美味しそうに頬張っていらっしゃいます。あまりの可愛らしさに、私は昇天しそうです、と……」

「なァにのんきにインスト更新してんだよ!」

「インスト更新は立派なお仕事です。ほら……もうたくさんの反応が!」

「もー……」


 すっかり人気俳優となった契。そして、そんな契の側に変わらず立っている氷高。氷高は、執事兼マネージャーである。

 氷高のマネージャーとしての日課は、SNSを更新することだ。氷高はいたって真面目に更新しているのだが、その更新内容が契の愛に溢れすぎていることが話題となり、氷高まで注目されるようになってしまった。「話題のイケメン執事」「契溺愛マネージャー」など色々と言われているが、氷高は気にしていないようである。

 契としては恥ずかしくてたまらないのだが。


「こうして堂々と契さまの麗しさを語れるのは幸せですね。推し、の概念が理解できたような気がします」

「そんなもの理解しなくていいんだよ……若干キモいおまえのインスト更新されるたびに、俺はとにかく恥ずかしいんだよ……」

「何故?」

「何故じゃねーんだよなあ……」


 氷高は契の気持ちを理解してくれないようである。氷高としては、契のことを自慢できるし、それが契の芸能活動に役立っているしで、咎められる理由がわからないのだ。


「ふふ、でも気持ちのいいものですね」

「何が?」

「こうしてたくさんの一面をインストに載せていますが……本当の契さまの顔を知っているのは私だけなのですから」

「本当の顔?」


 氷高はふっと微笑むと、スマートフォンをテーブルに置く。そして、氷高をグッとベッドに押し倒した。


「……こういう顔です」

「おまえ、どこでスイッチ入ったんだよ……」

「私は常にスイッチが入っていますよ。契さまの顔を見れば、いつでもイケます!」

「……おまえ、それどうにかならないかなあ……ちょっと萎えるんだよ……」

「萎える!? そ、そんな……」

「わかったわかった、大丈夫。萎えてないよ。ほら、こいよ。……きっと、明日からとんでもなく忙しくなって、しばらくこういうこともできなくなるだろうから。俺も、それはしんどい」

「契さま……!」

 

 氷高はパアアアっと顔を輝かせる。そんな氷高の顔を見て、契は苦笑した。そして、飛びついてきた氷高を、ぎゅうっと抱きしめるのだった。


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bkm
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