十四

「おかえりなさい、織さま……! ご無事だったんですね、安心しました」



 ほぼ無言の状態のまま二人は屋敷にたどり着いた。安住の村から屋敷までの歩けば長い距離を、気まずい雰囲気のまま戻ってきたのだから、織は精神的にも疲労してしまっていた。屋敷に入るなり明るい笑顔で出迎えてくれた詠に心が癒やされるような心地だったが、正直誰かと話す気力すらもない。織はなあなあに返事をして、そのまま自分の部屋に戻っていこうとする。

 しかし、そんな織を詠が呼び止める。



「あ、あの織さま……」

「……ん?」

「えーと、……ふ、雰囲気……変わりましたか?」

「雰囲気?」



 振り返れば詠が、困ったように頬を染めていた。なぜそんな表情をされなくてはいけないのかわからない織は首をかしげたが……詠の言葉を聞いた瞬間に、ハッと全てを悟る。



「……な、なんだか、……色気が、……儀式って、どのようなことをしたんですか?」

「〜〜ッ、べ、別に……変なことはしていない! ふ、風呂に入ってくる!」

「あっ、織さま!」



 抱かれた、というのはやはりわかるものなのだろうか。

 急激に恥ずかしくなってしまった織は、一気に足を速めてから逃げてゆく。そんなやりとりを見ていた鈴懸からも、逃げたかった。
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