「鈴懸――……、……あれ?」


 龍に向かって手を伸ばしたところで――世界が一転した。神社にいたと思ったのに、自分は布団の中にいる。

 ……夢、か。

 冷静に自分の周りを見て、織は自分が夢の中にいたのだということに気付いた。

 鈴懸と一緒に寝たせいで、鈴懸の夢を見てしまったのかもしれない。……というより、あの龍が鈴懸なのかなんていうことはわからないのだが。織は、鈴懸が龍の姿になっているところなど見たことがないのだから。夢のなかだから、適当な姿で再生されたのだろう――そう思った。


「……織、おまえ」

「えっ……う、うわっ」


 変な夢を見た……そんな風に織がもやもやとしていれば、いつのまにやら目を覚ましていた鈴懸が呼びかけてきた。鈴懸はなにやら眉を寄せた、機嫌の悪そうな表情。


「……なんか、見た?」

「へ?」

「だから、夢で何か見た?」

「えっ……い、いや……綺麗な神社と、白い龍の夢……だけど」


 もしかして、起き抜け一番に「鈴懸」と呼んでしまったのに気付かれただろうか。妙に恥ずかしくなってしまった織は、龍を鈴懸だと思い込んでましたということははぐらかして、とりあえず夢の内容を伝えてみる。そうすれば鈴懸ははあー、と深い溜息をついた。


「同じ夢かよ……」

「同じ? 貴方も神社と白い龍……」

「俺からすれば神社とおまえの夢な。俺がその白い竜なんで」

「はっ!?」


 バツの悪そうに頭をかいて起き上がる鈴懸。しかしそれは織も同じである。同じ夢を見ていたということは――あの、「願い事」を聞かれていたということになる。あの願い事は別に、織が望んでいることではない。夢の中だから、思ってもないことを言ってしまったのだと思う。しかし、鈴懸にとってはあの願い事を織が言ったということで。あんな、子供みたいな願い事を彼に聞かれたのだと思うと、織は恥ずかしくて仕方がなかった。

 それに、あの白い竜が鈴懸だなんて。あの、美しくて神々しい竜が、この――


「覗き見かよ、悪趣味だな! 変態かおまえ!」

「――ハァ!? こっちの台詞!」


――傍若無人お下劣俺様野郎なんて!

 織は信じたくなくて、そして腹がたって。がばっと布団を剥ぐと、そのまま立ち上がった。鈴懸を視界にいれないようにして、着替えを始める。


「……」


 鈴懸はそんな織の背中を見つめながら、またため息をつく。


(人間のくせに俺のなかを覗きやがったな……)


 白く、細い背中。華奢な肩。憂い気な濡羽色の髪の毛。織と同じ夢を見たことへの苛立ち、それから夢の中で織の口からでた願い――現実の彼の、寂しそうな背中。色んな想いがごちゃごちゃに混ざって、気分が悪くなって、鈴懸は再び布団に潜り込んでしまった。
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