昨夜の夢のせいですっきりとしない気持ちのまま、織と鈴懸は宿を出た。ここから安住の村まではそう遠くない。今日の夕方には、村にたどり着くだろう。


「……というか、貴方があの竜になれるなら、その姿になって俺を乗せて村まで行ったほうが早いんじゃ?」


 昨日歩きっぱなしだったせいか、ふくらはぎが筋肉痛になっている。歩くのが億劫になった織は、ふと思い立ったことを鈴懸に言ってみる。特に間違ったことは言っていないし、むしろそうしたほうがいいだろうと客観的にもそう思った織だったが……鈴懸の表情は複雑だ。


「……今は竜になれない」

「なぜ?」

「……力がない」


 ぼそぼそ、と鈴懸が言葉を紡ぐ。

 いつもうるさいくらいにぎゃんぎゃんと話すのに、なにやら今の彼はそうではないようで。織から目を逸らし、自信無さげに小さな声で言ってきた。


「……信仰する人間がいなくなった神様は、いないも同然なんだよ。力がない。おまえがいるから俺はかろうじてこうしていられるわけで。俺の神社を見ただろ、あんなに朽ちているんだ。人間なんて、誰も俺のことを、知らない。だから俺には、竜神としての力は、ない」

「……え、」


 どきり、とした。

 鈴懸の言葉を聞いた織は、なぜか頭が真っ白になった。いつも自信過剰で俺様な鈴懸の、自己を否定するような発言。そして、あまりにも哀しい彼の運命。どんどん自分の存在を忘れ去られていって、そして力を失っていくって、どんな気持ちなんだろう――それを思うと、織はゾクッとした。


「……じゃ、じゃあ……歩いて、いこっか」


 しかし――織は、何一つ鈴懸に優しい言葉をかけられなかった。

 だって、彼のことをよく知らない。だって、自分みたいな底辺の人間が、神様を励ますだなんておこがましくてできない。だって、自分みたいな空っぽな人間の言葉など……力を持たない。

 たくさんの、言い訳。でも、言い訳を連ねれば連ねるほど、自分が嫌になってゆく。所詮、自分はこんな人間なのだと。暖かい言葉の一つも思い浮かばない、酷い人間なのだと。


「――あ、安心しろよ、おまえを護れるくらいの力はあるぜ! なんたって俺様だからな! 元の力が強いから弱体化しても強いんだ!」

「……うん、……よかった」


 彼の言葉が耳に入ってこない。自分を見つめて、そして辛くなって。

――ああ、だから他人と付き合いたくないんだ。

 言い訳の果てに、最後に、自分を責めた。
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