触って溶かしてあげましょう。

「ちょっ……離せよ!」



 資料室に入ると、芹澤は俺の手を振りほどこうと必死になっていた。でも俺はそれを無視して部屋の奥まで引っ張っていく。芹澤は案外力が強くなくて、そこにたどり着くのに苦労はいらなかった。

 本棚が並ぶ、その奥。窓から差し込む太陽の光がほとんど当たらない場所。俺はそこで、芹澤を壁と腕の間に閉じ込めてやる。



「は、離れろって……」

「やだね」

「ほんと、意味わかんないから! おまえ俺をどうしたいんだよ!」

「……どうって。……泣かせたいんだけど?」

「なっ、なかせ……?」



 わかりやすくビビっている芹澤をみていると、ゾクゾクしてくる。芹澤は持っている紙パックを両手でぎゅっと掴んで、瞳を震わせて、完全に怯えていた。

――ああ、ほんと最高だなあ。そう思って俺はふっと笑ってしまう。芹澤はそんな俺の笑い声にすらもビクッと肩を震わせているから、ひどく愉快に思った。



「怖い? 昨日のこと、思い出す?」

「……っ、ちがう」

「違う? じゃあまた同じことやってやるよ」

「まっ……やだ、触るな! ちょっ……」



 芹澤がぼとりと紙パックを落とすと同時に、俺は芹澤の両手首をまとめあげて壁に押し付ける。そして、はっと目を見開いた芹澤に向かってニッと笑ってやると、ネクタイをほどいてシャツのボタンを外した。



「無理……むり、さわるの……やだ……」

「大丈夫だって、犯したりしねえから」

「……こ、わい」

「こわくねーって」



 ボタンがひとつ外れるごとに、芹澤の口調が弱くなってゆく。少しずつ、少しずつ芹澤が俺に下っていくようで、恐ろしく興奮した。あえてゆっくりとボタンを外していって、舐めるように芹澤の顔を見つめてやる。ほんのりと潤んだその瞳から、ぷくりと涙が膨らんでいって……最後のボタンを外すと同時にポロリとこぼれ落ちた。

 涙が、蜜のように見えた。美味しそうだなって、そう思った。まるで誘われるように、無意識にそれに唇を近づけて……舐める。芹澤はぎょっとしてまた暴れだしたけれど、なんとか押さえつける。瞼はぎゅっと閉じられて、それでもぽろぽろ、ぽろぽろと涙が溢れてくる。その一滴一滴に口づけていけば、芹澤の息は恐怖からかどんどん荒くなっていって、身体がかたかたと震えだす。



「……可愛い反応すんじゃん。芹澤」

「――あっ……!」



 瞼をべろりと舐めあげて、そしてはだけた胸を手のひらで撫でてやった。ビクンッ、と芹澤が反応するものだから楽しくてさわさわと胸を撫でまくってやる。芹澤の唇から「やだ、……やだ……」と何度もかすれ声が零れていって、……それが、益々俺を煽る。



「いつもの強気な口調はどこいったの? 芹澤くん」

「……っ、はな、して」

「離して欲しいならもっと泣きな」

「ひっ……」



――ちょっと、自分がおかしいと思い始めていた。俺はこんなに弱々しい奴をイジメる性癖なんてもっていない。サディストでもないはず。なのに、芹澤をみているとイジメたくてイジメたくて仕方ない。泣いて欲しい。もっともっと、泣いて欲しい。

 俺が芹澤の乳首をぎゅっとつまみあげると、芹澤がひしゃげた甲高い声をあげた。男だし乳首で感じているわけではないと思う。今まで優しく撫でていたものを急に強くつまみあげたからびっくりしたのだろう。でも、それでも芹澤がイイ声を出したのが嬉しくて、俺はぐいぐいと乳首を引っ張ってやった。



「ひっ……く、……あっ……」

「ほーら、もっと泣けよ」

「やっ……」



 乳首を人差し指の側面と親指で掴みながら、ぐるぐると円を描くように引っ張る。芹澤の泣き方はどんどん激しくなっていって、時々しゃくりをあげるほどになっていた。もうすっかり抵抗はなくなって、俺にされるがまま。ぼろぼろと涙をこぼしながら、俺の乳首責めを大人しく受けている。

 ああ、たまんねえなあ。芹澤の泣き顔があんまりにも扇情的で、頭がぼーっとしてくる。このまま、理性が朽ちていきそうだ。もう、襲っちゃってもいいんじゃないかなって、そんな考えが浮かんでくる。別にいいじゃん、こんなクソ生意気な奴好きにしちゃったってさ、って。

 でも。思わず俺は動きを止めてしまった。



「……お願いします、……許してください……触らないでください……」



 その言葉が、あんまりにも衝撃的すぎて。

 頭をハンマーで殴られたような、それくらいの衝撃が俺にはあった。あの俺様が俺に向かってこんな風に懇願してくるなんて、夢でもみているんじゃないかと思った。ぼろぼろと泣きながら、濡れたきらきらと光る瞳で俺をみつめて、絞り出すような声でそんな風に。



「……ッ、」



 芹澤が呆けている俺の手を振りほどいて、俺を突き飛ばす。キッと俺を睨みつけているけれど……その瞳に迫力はない。がくがくと震える手で開けたシャツを掴んで、はーはーと息を荒げながら俺を怯えるように、それでも睨みつけて。

 いよいよ自分がおかしい、そう確信する。ここまで怖がらせておいて尚、泣かせたいと、そして泣き顔を可愛いと思っている。いくら嫌いな相手だからってやっていいことには限度があるというのに。自分はいつのまに良識を捨てたんだと、自分自身に絶望した。



「……もう、二度と……触るな、」



 弱々しくそう言って、芹澤が俺から逃げるようにして教室を出て行く。俺は呆然とその背中を見つめて、眩暈を覚えていた。

 これ以上は、本当にダメだ。わかっている、わかっているけれど、またアイツをみたら泣かせたくなるかもしれない。

――芹澤の涙は、何よりも質の悪い麻薬のようだ。




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