触って溶かしてあげましょう。


 その日、俺は早退した。理由なんて単純だ。今日はもう学校にいる理由がないから。芹澤をいじるために来ていたから、その目的を果たした俺は昼休みが終わった瞬間に学校から出て行った。

 いつもみたいに友達とくだらない遊びをして、時間が過ぎていく。でも、今日の俺はそうして遊んでいても心が満たされることはなかった。

 芹澤が頭から離れなかったから。あの泣き顔を思い出すと、もっともっとみたくて、足りなくて、全身がからからに乾いてしまうようなそんな心地がした。ずっと舌の根が乾いて、飢えた気分でいた。

 そうして悶々としていればいつの間にか日が暮れて、俺は友達と別れた。丁度部活をしている生徒も帰宅する時間で、ちらほらと俺と同じ制服を着た生徒が街に現れる。俺も彼らと一緒に、電車に乗って帰宅しようか……そう思ったところで、とあることを思い出す。そういえば今日は集めている漫画の発売日だったな、と。駅の近くにある本屋に寄って、真っ直ぐに漫画のコーナーへ向かっていった。本屋のしんとした空気が俺は落ち着かなくて苦手だから、早く買い物を済ませるべく早足で目的地まで向かう。向かっていた、が。



「……あ、」



 俺は、立ち止まってしまった。あいつがいたのだ。ーー芹澤が。

 芹澤は小説のコーナーにいた。ぼんやりと小説の背表紙を眺めたかと思えばスマホをいじったり、そんな地に足がついていないような、変な様子で。今の今まで芹澤のことを考えていたというのに、声をかける気になれない。あれだけ思い切り泣かせてしまった後だし、冷静になって考えればあれはやり過ぎだし。罪悪感も手伝って俺は芹澤から逃げるように目的のコーナーまでたどり着く。

 あいつ、どんな本を読むんだろう。

 傍若無人なあいつも、黙っていれば普通の美少年だ。きっと本を読む姿は様になるだろう。ミステリーを読んでいても恋愛小説を読んでいても、しっくりくる。



「……くだらね」



 なんだかどうでもいいことを考えてしまった。俺は自分自身がわからなくなってきて、ため息をつく。

 これ以上芹澤のことを考えたらなんだかまずいような気がして、俺は目的の漫画をとるとさっさと会計をして本屋から逃げ出した。



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