君の世界に色が付く。


「涙ー……」

「ん……」

「エッチ、どうだった?」



 よごれたところをティッシュで吹いて、二人でベッドに横になっていた。涙に腕枕をしてやって、ぼーっとしながらぽそぽそと話したりキスをしたりしていれば、あっという間に夕方になってしまう。夕日が部屋の中に差し込んで、部屋の中は赤く綺麗に染まっている。



「……どう、って……」

「いや……ほらさ、触られるの、苦手だったんだろ? だから……ちゃんと、気持よくなれたかなーって」



 息のかかる距離で、じっと見つめ合って言葉を交わす。涙は質問も質問だったからかかあっと顔を赤くして、口ごもってしまった。もそそ、と布団の中に潜り込んで、ぎゅっと抱きついてくる。



「……言わなきゃ、わかんない?」

「……気持ちよかった、って解釈していい?」

「……」



 こくん、と涙は頷いたから、俺はほっと安堵の息をつく。よかった、ちゃんと気持ちよくなってくれたんだ。そう思うとたまらなく嬉しくて、俺もぎゅーっと涙を抱きしめ返した。



「あのさ、涙」

「ん、」

「……あのー、俺、せっ、……セックスがしたいのです」

「えっ……? え、えっと……せ、せ、せ……せっく……す、……したじゃん」

「いえ、ですから、その……えーっと……い、挿れたい、なあー……って」



 そして俺は、もにゃもにゃと心の中で丸まっていた欲望を、吐露してみる。そう、さっきのエッチ……お互いのものを触り合ってイッただけで、ひとつにはなれていない。突っ込みたいというよりも涙のなかにはいりたくて、ひとつになりたくて……俺は、涙に頼んでみる。

 しかし、涙の反応は予想外だった。ぱっと顔をあげて、びっくりした顔をしている。



「俺……女の子みたいにいれるところ、ない……よ……?」

「あるじゃん」

「ないよ?」

「いや、お尻の穴」

「えっ!? そこ、はいるの!?」

「男同士はそこを使うんです!」



 そういえば涙は友達と下ネタを話しているところもみたことがないし、自分でそういったことをネットでみたりもしなさそうだ。今までの夜遅くに帰る生活なんてものを考えるとテレビもあまりみなそうだし……男同士でセックスができるなんて、思っていなかったのかもしれない。精々、今みたいに触り合うくらい、みたいな。前になかを弄れるとは言ったことがあるけど、本気で捉えていなかったようだ。たしかに知識がなければ尻に何かを挿れられるなんて冗談のようなものだし、気持ちいいなんて思わないかも。



「……やっぱ、それは無理?」

「……それ、って……」

「ん?」

「……女の子、みたいに……俺も、結生とひとつになれる……ってこと?」

「へっ」



 てっきり、「そんな屈辱的なことできるかー!」なんて言ってくると思っていた。だから……俺は予想外の涙の反応に、ぎょっとしてしまう。挿れさせてくれるの?とか、そんなに俺のこと好きなの?とか、どうしよう涙が愛おしすぎる、とか色んな思いがぐちゃぐちゃに溢れてきて、わけがわからなくなったのだ。



「……うん。……ひとつになろ」

「……ん、」



 また、ちゅって唇を重ねる。幸せそうにとろんとした目をしている涙をみて、胸を締め付けられた。

 本当に、涙のことは大切に大切にしたい。始めの頃の滾るような劣情はどこにいったのか。いや、消えたわけじゃないけれど、それを遥かに凌駕する涙への愛情が、俺を強く押さえつけていた。



「……買い物いく?」

「買い物?」

「ごはん買わなきゃ」

「……うん」



 赤かった部屋が徐々に暗くなっていって、日が沈んでいるんだな、と感じた。俺は涙を抱き起こして、もう一回キスをして、そして出かける支度を始めた。




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