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過去を辿るように




 どんなに贅沢なものを得たって、欲は大きくなるばかりで結局は最後まで不満だらけだ。だけど別に彼女の活動を応援していないわけじゃないし、心の底から楽しんでいる彼女の様子を見るのは好きだった。
 情けないなんて分かってる。ただのやきもち、独占欲。大人になったからって子供みたいな感情が消えるわけじゃなかった。
 もう、目を逸せない。気のせいなんかにできやしない。



 手元を見ている時の伏し目がちな目が好き。ひとまわりもふたまわりも大きな手が壊れものを扱うように、戸惑いながらも優しく触れてくれるのが好き。ほんの少しささくれ立った指先も、私よりあたたかい体温も、想えば想うほど好きなところがどんどん増えていく。
「ねえ、降谷零さん」
「……改まって呼ばれると、なんだかむず痒い気もするな」
 透さんの時は少し声を作ってたのかもしれない。前よりも低くて落ち着いたように聞こえる声は、本当の零さんのままのものだ。それだけでこんなに嬉しくなれるなんて、我ながら安上がりにも程がある。
「漢字、どうやって書くの?」
「ああ、そういえばそんな話もしてたな……」
 机の上に用意した紙の上にスラスラとペンを走らせた零さんの手元を覗き込む。
「爽やか〜〜」
「……それだけ?」
「うーん、あとは綺麗! とっても!」
「……そうか?」
 少し照れ臭そうな表情で眉を寄せた零さんに何度か頷くと、零さんは顔を逸らして黙り込んだ。追いかけるように身を乗り出して青い瞳を見つめる。
「せっかくの素敵な名前だもん。これからたくさん名前呼んでもいい?」
 きょとんと目を丸くさせた零さんがおかしくて思わず吹き出すようにして笑った。
 時折覗いていた零さんのどこか子供っぽい言動は、太陽みたいで夏の真下に広がる向日葵みたいな安室透≠謔閨A夜の海に押し寄せる波のように静かに思える降谷零≠フ方だったのかと思うと、胸の奥がきゅんとしてどうしようもなく愛しくなる。

 全部を知りたい。全部を知ってもらいたい。ほんの少し臆病で、ほんの少し秘密に隠れた、お互いの全てを。