夏戦 | ナノ

 夏休みが始まる

東京は今日も暑い。

梅雨も明けて夏真っ盛りのこの頃、
ギラギラと肌に、建物に照りつける太陽が眩しくて、つい目を細めてしまう。

汗のせいで制服が背中に張り付いて気持ちが悪い。それでも、周りの学生の表情は笑顔に満ち、輝いていた。
それは、明日から…

「夏休みかぁ」

誰もが楽しみにする夏休みだから。

風通しがいいとしても、全校生徒が同じ場所に集まって人口密度が高まり、もはや地獄でしかない体育館での終業式。
あの人カツラらしいよと噂される校長の話を右から左に流しながら周囲を伺うと、刻一刻と迫る夏休みのスタートにほとんどの生徒が浮かれているようだった。いつにもまして真面目に校長の話を聞くそぶりを見せながら、近くの友達に今後の予定を確認する人。堂々とちょっかいを出して通りかかった先生に怒られている人。解放感を前に睡眠する人。
いろんな生徒がいる中で、ここ数年つまらない夏を迎えていた私も、今年の夏休みは楽しみにしている。

OZの管理センターの上部で働いている私は、今年同じ部に勤める後輩から長期休暇(いわゆる夏休み)を勧められたため、お言葉に甘えて休ませてもらうことになった。
初めての休暇なわけだけど、もしかして毎日仕事に行き過ぎて部下に
「うわぁこの上司今日もいんのかよ、たまには俺らの前から消えろよ」
なんて思われてしまった故の勧めだったのだろうか。
いやいやそれはないだろう。
うん、毎日、頑張って、るもん、ね。
…そんなこと思われてなければいいけどな。

そういう思考は隅っこにおいやっておいてだな。上司の人も優しくて、ゆっくり息抜きすればいいと言ってくれた。
でも正直に言ってしまうと、私には親友とか、仲のいい友達はいない。
むしろ友達もいないんじゃないだろうか?
クラスメイトも友達なんかじゃなくてただの知り合いだと思うというかほぼ確実にそうだと言える。
毎日OZの世界で働いているうちに、学校の友達はいなくなっていたのが現実で。群れる事を好む女子はすでにグループを確立し、そんなところに果敢に攻めて飛び込むほど私も勇者じゃない。入学式から一ヶ月経った頃に行われた泊りがけの合宿だって、同じ班の子や同室の何人かと喋りはしたものの、深い付き合いを持つまでにはいかなかった。折角の友人作りチャンス中もログインしていないOZの事で頭がいっぱいだったし、こうやって考えると、凄く悲しい人なんだな、と思わず苦笑い。

小学校ラストの夏休みを振り返ってみれば、手っ取り早く宿題を終わらせて、寝るときと食事と勉強以外は毎日OZにいたし、両親はそんな私に呆れたのか、行き先だけ告げて2人でどこかへ出掛けていくという感じで、本当にずうっと部屋にこもってた。
決して引きこもりなどではない。ニートでも自宅警備員でもない。立派なOZの管理人だ。

過去の自分に思いを馳せているうちに終業式は終わったらしく、1年生から順番に体育館を去っていく。教室の窓、閉まってたから暑いだろうな。

各教室に戻った後はそれはそれはもうひどくみんなはしゃいでいた。先に戻ったクラスからも、はしゃぎ声が鳴り止まない。ここは動物園かと言うほどにうるさい。一応受験を通してきてるはずだから真面目な人ばっかなのかなと思ったりしたけど、それなりに活発系なんだと感じる。
真面目な優等生や先生はもうすでに呆れている。
私も正直こういう空間には慣れない。自然と眉が寄るが、穏やかに、そう、穏やかに行こう。
担任がため息を吐きつつも、宿題配布するね、と机の上に山積みになった冊子を真っ黒な笑顔で楽しそうに数えて配る。

そういえばこの教師はどえすだった。
やってこなかった奴は覚悟しとけよ、なんてブツブツと呟きながら配布していく。
先生やめてあげて、一番前の席の子が怯えてるよかわいそうだよ。

仕事しない夏休みを有意義に過ごすために、宿題は去年みたいに手っ取り早く終わらせようかな。こんな感じで担任も怖いし。
というか有意義に過ごすって言っても、まず何も予定がないかも。
進んでプールに行くような人でもないし、花火なんて一人でしたってつまらないし、近所に小さい子や遊べる子いないし。そもそも遊び全般に誘う友人がいない。これはもうダメだ。
夏祭りに花火大会?そんなリア充イベントふざけんじゃねぇよ!!みたいな?
でも折角の何もない夏休みなのに、夏休みなのにぃい…

予定が何もない私は一体なんなんだ?
ただのボッチだな。完結した答えに心の中で涙を流した。

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