夏戦 | ナノ

 13年目の夏

仮想世界OZは今日もせわしなく動く。ショッピングモールではたくさんのアバターが買い物に動き回り、株価の変動が表示され、世界各国のニュースが時報と共に流れ出す。
国を問わず、様々なユーザーが自動翻訳を使い国境を越えてコミュニケーションをとり、アバターを使った格闘や頭脳を使ったゲームがそこかしこで行われている。
空には守り神、ジョンとヨーコが潮を吹きながら優雅に泳ぐ。そんな変わらないOZの日常。

その中心に、管理センターと呼ばれる大きなタワーが建っている。私はそこで働いている中学生だ。
夏も始まり蝉もうるさく鳴く頃、きっかけは同じ職場の後輩の一言だった。

『部長は夏休み取らないんですか?』
『そうだなぁ、でもほら、他のみんなに迷惑じゃない?』
『いやいや、むしろこっちが迷惑かけてばかりですから、たまには部長も休んでくださいよ』
『私は好きでこの仕事やってるから迷惑だなんて思ってないんだけど。でも…たまにはお休み貰おうかな』

事務局から有給休暇届のテンプレートを受け取り、指示に従ってキーボードを叩く。初めて目を通す書類に十分に目を通し、ただ一人の上司に提出した。

『ようやく届出出したわね…存分に息抜きしてきなさい。貴方、学生の癖に働きすぎよ』
『好きでやってる事なので、全然大丈夫ですよ。ですが、今回は皆のお言葉に甘えてお休み頂きますね』
『自分の年を考えなさい。貴方今年から中学生よ?』
『年齢の話は禁句って言ってるじゃないですか!』

有給休暇の旨を部下たち、関係者各位に連絡して回り、持ち帰りの仕事データを暗号化してログアウトする。

人生で13年目の夏がきた。
忘れることのできない、特別で不思議な夏がきた。

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