夏戦 | ナノ

 逃げたもん勝ち

周りは野次馬のアバターだらけで、更にチャットバルーンで画面はほとんど真っ白な状態。
野次馬するのは結構だけども、これじゃ見えないじゃない。私は戦おうとしてるのに。邪魔しにきてるの?そんなにOZどうでもいい?

いくら非常時とはいえどALLコールをかけるのはOZでは禁止されてるから、普通にバルーンを使おう。 こんだけ注目されているわけだ。私がなにかしらアクションを起こせばいやでも視線は集まるだろう。

『静かにしてくれますか。画面が見えない』

すると面白いくらいに画面上からバルーンが消える。荒れたOZの風景と数多のアバターが見えるだけになった。
相手はどうやらこれを勝負の始まりと取ったらしく勢いよく飛びかかってくるが、それを全て避けていく。攻撃はしない。私は言った。勝つために来たんじゃない、調べ物だけだって。

避けている間わざと数回攻撃を受けてデータを分析し、こいつにぶち込める用のウイルスを作成していく。やるからには徹底的に。絶対潰してやる。

無言でひたすら観戦している2人は私の行動がよく分からないらしく、佳主馬くんに至っては隠すこともなくイライラしていてこの後が怖い。締め上げられそう。家を出されるかもしれない。どこか隠れる準備をしなくては。陣内家に隠れんぼの達人はいませんか。そうだちびっ子に聞いてみようか。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないだろう私のバカ。ひたすら打っていたプログラムもそろそろ完成に近付いてきたため打ち込む準備をする。完成したら一発腹を殴ればいい、ただそれだけ。 が、簡単にできればいいのだけども。
やまない攻撃と巻き込まれて吹っ飛んでいく野次馬のアバターに同情するわけでもなく、隙を狙うが流石強いだけはある。なかなか隙を見せない。
見せても私からの距離が遠く攻撃を繰り出せない。遠距離でウイルスが打てればいいのにと悔やんでも仕方がない。近距離に持っていくにはどうしようかな。うんうんと考えてもいい策は浮かばず、自分のアバターに傷はつくが仕方ない。駄目元であれをしようとだいぶ距離がある状態で私は動きを止めた。向こうも怪しんでスピードを緩めるが私が諦めたと思ったのか加速して此方へ向かってくる。
チャンスは一回。相手が私に攻撃をした瞬間。そこにできた隙を狙う。

「一発くらってくださいな」

逃がさないようにカウントしてウイルスをぶち込んだ。愛着のある私のアバターがダメージを受けたと同時にウイルスが作動した相手が私を殴った体制で動かなくなる。

『また助けに来るからみんな待っててね!じゃあ!』
<ナマエさんがログアウトしました>

「「………」」
「はい終わった!じゃあね!」

真面目モードは終わりだ今は自分の命を大事にしよう逃げろ逃げろ!

「あっ、待てっ…!」

誰が待つものか!!絶対佳主馬くん怒る!私怒られるの嫌い!
目指すは割り当てられた自分の部屋。
障子は開かないようにしとかなきゃ。

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