夏戦 | ナノ

 悔しいけど

彼女がナマエである可能性はないと考えた後、風呂場で偶然にも会ったから試しに納戸に呼んで正解だった。
僕の中の可能性が本人である考えに傾いたから。あんな下手なかわし方されたら誰だって思うよ。
なまえがOZのナマエだってことくらい。
人間あそこまで似たアバター作れるもんなんだね。人柄が出るというのか。
キングカズマは僕の理想や憧れを込めて作ったけど。

ここにいる間にいつか姿を現してくれるかなと思っていたら、OZでの騒ぎ。何が起こっているのか分からないからニュースをみて状況を把握すると同時に、やっとおでましかなと不謹慎なことを考えた。彼女の大事なフィールドが破壊されたんだ。黙ってるわけがない。いつ出るのかと待っていたら、悔しいことに僕がこのアバターに負けてからだった。
最悪。かっこつかないじゃん。
休暇中の彼女に戦わせるのは気に食わないけど、今はこうするしかない。
正直今の僕には勝つことができない。現に負けてしまった。

悔しくないなんて言ったら嘘だ。
戦うのは楽しいけどいつも勝ってばっかりで、だから悔しさっていう感情を僕は少し忘れていたのかもしれない。
初心に帰らされた気分だ。余計悔しい。さっきのアバターに負けたことが、彼女に任せているこの現状が、キーボードから指を離したことが、OZを守れなかったことが、悔しい。
握りしめた手の爪が皮膚に食い込む。
彼女が頼もしく見えるのは僕の心情のせいかな。

彼女とは現実世界で会うのはこの夏が初めてだけど、OZの世界では仕事で頻繁に会っていた。
それなりに彼女の有名ぶりだって、ちゃんと知ってる。今までのことも踏まえて、頼もしくみえるのもあるんだろう。一つため息をついた。
落ち込んだ気分はなかなか拭えない。

ところで、隣にいるお兄さんは顔が真っ青なままだけど、なんかあったんだろうか。
…あ、そういえばナマエがメールで言ってた気がする

「下のほうの子なんだけどね、ケンジくんとサクマくんって子がいてすっごく面白いの!あぁいう元気な人好きだなぁ」

で、それにお兄さんこと健二さんは気づいて真っ青ってところかな。彼女の先程の発言からも考えたら筋が通る。

だめだ。今は余所事を考える時じゃない。
今はナマエと、このアバターとのバトルをちゃんと見なきゃ…ね。

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