夏戦 | ナノ

 Solve Me

少年は私のことなんてまるで見えていないというようにパソコンをやってたから、本当は5分もせずに部屋に戻った。迷惑をかけるのは嫌いだからね。

恐る恐る居間を覗くと先程の雰囲気はなく、縁側で夏希お姉ちゃんと侘助さん?が仲良く花札をやっている。それ以外の女性陣は多分全員台所で、男性陣は少しだけお酒をか…わしてなかった。思わず安堵の息を吐く。
久し振りのお出掛けで余計疲れた…楽しみにしてたものの、知らない環境って結構キツイもんだなぁ。

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田舎の就寝は早い。
まだ8時だというのにすでに部屋の電気が消え始めている。
都会なんて夜中12時でも全然なんだけど。むしろみんな夜中は3時まで余裕って感じだけど。私だけ?
そういうこともあってか、手伝いが終わると部屋に戻されたので用意された布団を敷く。見慣れない蚊帳を見ていると携帯がメールの受信音を発した。

OZ専用に給料で買ったスマートフォン。だからOZ関連のメールしか来ない。
最初は上司からかと思ったが、休暇中にメールしてくる程常識のない人じゃないし…
知らない人かなと思って開けば案の定アドレスは見たことのないもので、件名は“Solove Me”。私を解いて。
なんだこれと思いながら本文を見る、数字が改行も顔文字もなしにずらりと並ぶ奇妙なもの。初めの数字は「8」。いや奇妙じゃない、この数字には見覚えが、見覚えどころの話でもない。どうして!!!

「なん、で。管理センターの、パスワードが…」

これは私たち上のほうにいる人しか知らない管理センターのパスだ。
2056桁のThe magic words are…という文章で始まる。
犯人は誰?何に使う気なの?とんだ悪ふざけだ、いい加減にしてくれ。犯人に憤りを感じながら、私は今日寝ないことを決心し、OZへと自分のアバターを旅立たせた。

ブラウン色の帽子を深くかぶせ、OZ内を徘徊する。
全OZユーザーに届いたのかこれなに?だとか気持ち悪いなんてチャットの様子がうかがえる。解ける人間がいるのか、いないことを願おうとどこかに問題がないか辺りを見回すとある所だけは、熱い何かを感じた。視線の先は「数学オリンピック」の会場。
数人の人が集まって、何かガサゴソとやってる。擬似乱数は数学、か。まずい。全力でアバターを飛ばすがすでに手遅れの状況だった。

そこにいたアバターが吃驚する動作をした。
くそっ!慌てて割り込んでいき、何も言わずに携帯をひったくって送信メールを確認。悔しいことに全員当ってる。
この家には流石に返答した人はいないよねと一抹の不安がよぎるが、いくらなんでもあの少年は解かないだろうし。ほら、スパムメールとか中身見る前にゴミ箱捨てそうな見た目じゃん?
きっと大丈夫だ。それより今は情報が漏洩したんだ、阻止しないと。

夜明けまであと3時間程度、意気込んだところで、どこかでバイブレーション機能が作動する音が聞こえた気がした。

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