夏戦 | ナノ

 少年K

地図通りに歩いたらすぐ着いた。ご丁寧に名前まで書いてあるけど漢字が読めない。かぬしうまとは。読み方知らないけどカタカナで書けばよかったんじゃないかな。あくまでも親戚用なのかな。

向かう途中、ちらちらと青白い光が見えたから一瞬人魂!?と焦った自分がいたけど、発信源に寄ってみるとただの納戸から漏れるパソコンの光だったから安心。ブルーライトは目に付くなあ。

恐る恐る覗き込むと、黙々とOZで何かをする少年の後ろ姿を確認できた。ヘッドフォンかけてるけど話しかけていいの、これ…人によっては機嫌悪くなる行動だけど。
しかし悩みは無用だった。私が話しかけるより先に少年の方が振り向く。

「やっと来た」
「正確に言うと逃げてきた、です」
「…とりあえずここに座ってて、区切りつけるから」

隣を指差された場所には、用意されていたのか偶然置かれていたのかは定かじゃないけど座布団が置かれていた。物音を立てないで静かに座る。
中々のタイピング速度に舌を巻く。
というか何してるんだろ、そんな高速に文字打って。
確かに私も仕事じゃそんな感じだけど、他に何かあるかな。

ばれない程度に画面を軽く見ると、そこにはOMCのウィンドウが。
もしかして、聖美さんと万助さんが話してたデモンストレーションやってる子ってこの人かな。食事の席にいなかったしほぼ間違いない。

急にタイピングが止まったと思ったらスリープをクリックしているのが見える。終わりましたか、そうですか。いつも座り慣れてるので大丈夫ですけど。

「何に逃げてきたの」
「嫌な空気から」
「ふーん、じゃあ質問入る」

聞くだけ聞いてふーんって!じゃあの基準も分からないけど、話が進まないから聞こうか。

「まず名前教えて」
「みょうじなまえ、です」
「……」

何秒の沈黙だったのか私には分からない。長い沈黙のような気もしたし短かったのかもしれない。何故彼は黙り込んでしまったんだ?不安の色が滲む顔で視線を彷徨わせる。ほぼ初対面の相手の顔を見るのは難しい事だ。

「単刀直入に言うことにした。OZやってたらアバター見せて」
「…OZナンテヤッテマセン、アバターッテナンデスカ」

私に突然の質問を華麗に返すスキルは生憎持ちあわせていない。つい棒読みがちになる。カタコトすぎたか…

「その言い方だとやってるとみなすよ」
「や!やってないです」

なんかここで正直にアバターを見せたとき、私は負けな気がする。
負けたくなんかない、パンツ見た奴に!
どう食いついてくるか構えていたら「そ」と、単調な答えが返ってくる。え、それだけ?嘘でしょ。

「もういいよ、どうも」

結局なんの質問だったの。意図はなに。
わけのわからないまま話を終わらされた私の行き先は、手伝いをするという理由で居間になるわけで、でもあの空気の中に戻るのは気が引けるんだけどなぁ…
悩むより先に口から出た言葉は「もうちょっとここにいる」だった。
目の前の少年は一瞬目をひらいて私を見たけど「…邪魔しないなら」と、無愛想に言ってまたパソコンを起動させる。
5分くらいしたら戻ろう。

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