夏戦 | ナノ

 どこに行った?

食後、母を探しに行こうと割り当てられた部屋に行った、はずだった。

予想通りまた迷子!!さっきから同じところに出る気がする!

各部屋を1つずつ見て周った(つもり)だけど、最終的には辿り着けませんでした。おっかしいな、私こんなにも方向音痴だったかな。いやいやいや違うよただこの家が広いだけなんだよ!

どうすればいいんだ聞くのは恥ずかしいと頭を抱えて悩んでいると、私を呼ぶ声が聞こえる。夏希お姉ちゃんの声だ。

「なまえちゃーん、お風呂入るけど一緒に入らなーい?どこにいるのー?」と、私の真後ろで叫ぶ。
私がしゃがんでるから見えないのかな。いくらブラックなところがあろうと流石にそんな悪ふざけは…しない、うん。しないよね。

「えっと、ここにいるけ…ど」
「うわっ!?あ、ごめん。そんなところで何してるの?何か落とした?」
「ううん、なにも落としてないよ」

よかった素だった。いや、そこはよくても迷子になってるのはよろしくない。さらにそのせいで、お風呂に行こうにも着替えが取りにいけませんなんて言えるわけがない。

「あっわかった。迷子になってるんでしょ。待ってね、確かいつもの美南さんの部屋は…」

そう呟くと自然な足取りで足を進めていく。慌てて着いていくと、さっき探し歩いた際に足を踏み入れた記憶のない場所に着いた。足を踏み入れてない時点で間違いなくここだろう。

「大正解!健二くんの隣の隣なんだね」

つまり仕事部屋の隣が健二さんの部屋か…彼なら部屋にこもることもないだろうしお互い心配なさそうかな。

無事辿り着いたことで本題に戻るが、結論から言うとお母さんいないじゃん…
いないだけじゃなくて、鞄まで消えてるとはどういうこと。

「なまえへ、お母さん急に仕事が入って東京戻るからお利口にして待っててください。美南より」
「えっ?」
「机の上に置いてあったよ」

見せられたのは一枚の紙切れ、本当に急いでたのか字が汚い。
直接言えばいいのに何でまた手紙なのか。それほど忙しい用事だったっていうことにしておこう。メールでもなんでもしてくれればすぐ気がついたのに。ぐちぐち心の中で文句を垂れていたら、丁度廊下を通りかかった万理子さんが思い出したかのように話しかけてきた。

「あ、そういえば美南さん仕事で帰ったけど…って、知ってるみたいね」

それだけ言えば、早足で去っていく。

「万理子さんもっと早く教えて…」
「万理子さんじゃなくて、万理子おばさんって呼んだら?」

なんだっていいじゃないか!放っておいてくれよ!

「ほら、早くお風呂行こう」
「無視しないの!」

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