夏戦 | ナノ

 彼女と彼女

母さんが麦茶と軽い食事を持って納戸まで来てくれた。毎年恒例のイカ料理が目立つが、嫌いなわけじゃないから大人しく口に入れる。師匠はやっぱり凄い人だ。

今頃居間は人だらけでわいわい盛り上がってでもいるんだろう。行こうと思っても、申し訳ないけどOZのことになると手が離せない。誰にも邪魔されたくないから。

それよりも僕は昼間迷子だった彼女が気になった。別にそういう気になるじゃなくて、ナマエさんっぽいから気になるってこと。昼間の彼女がOZの有名人ナマエの可能性は恐らくフィフティーフィフティー。五分五分。あそこまで雰囲気似てるなんてそうそういないでしょ。

僕がナマエさんを気にかける理由は、恋愛感情ではなくて尊敬や憧れに近いもの、これが一番しっくりくる答えだ。
自分で言うのもなんだけど同じOZ世界の人気者として共感できる気がするんだ、色々と。やってることは全く違うけど。

僕は一度パソコンから離れ、みんなが集まってる居間を覗いてみた。

彼女は理一おじさんの隣でたどたどしくお酒を注いでるところで、さっき僕が感じたナマエさんの雰囲気とは違う雰囲気を放っている。
今はまるで狩られそうなウサギみたいだ。

「(僕のただの思い込みにすぎないか…)」

そうだ、彼女があのナマエだなんていつ誰が決めつけた。
僕は違う、決めつけたりはしてない。可能性は半分だったし。

ナマエは大まかな個人情報ですら全く公開しないことで有名。「私は中学生です」なんて僕が知ってる限りじゃ言ってない。唯一公開してあるのは名前だけ。

あー!こんなに他人を気にするの初めてだよ。しかも女子でしょ?
僕頭どうかしたんじゃないの?

もういいや、悩んだってしょうがない。
本人に聞けばいいんだし。とにかく仕事を終わらせよう。
聞くにしてもいつ聞こうかな。
一人でいるときを狙ってとか?
あ、お風呂の前で待ち伏せ…却下却下。
って、また考えてる!仕事進んでないじゃんか!

「はぁ……なんか喉かわいた」

麦茶でも飲もう。画面から目を離さないでグラスを取る。やけに軽い気がするがそのまま口元へ。口元につけたグラスを傾ければ空気だけが入ってきた。

仕方ない。取りに行こうかな。

prev / next