夏戦 | ナノ

 お風呂の災難

お風呂場に向かう途中で子供たちと合流し、仲良く6人でお風呂に入ろうということに。
それは別にいい、大勢で入るのなんて小学校の修学旅行以来だけども、その記憶を掘り返すのは自虐行為にあたるのでやめよう。詮索するのはやめだ。

騒ぐちびっこを片目に黙々と頭の泡をたてている間、ちらちらとこちらを見る視線が1つ気になってしょうがない。

「あの、なにか?」
「何でもないよ、何でも」

視線の正体はちびっこではなく、夏希お姉ちゃん。ちびっ子の世話をしながら凄い頻度でこちらを見てくる。何がしたいのやら。

「いや、そんなに私のこと見てて何もないはないと思うけど」
「違うの。ただ肌白いなーとか全体的に細いなーとか中学生の割には結構あるんだなとか」
「黙ってください!!」

話を盛りすぎた!!!至って平均的だ!!肌が白いのは外に出ていないから否定はしないけど、細いなんて冗談。食べることには食べるけど運動なんてしてないし座りっぱなしだし。

「最後のは冗談…かな」

そこははっきり冗談だって言おうよ!しかも若干死んだ顔しないで!自分の胸を見下ろすのやめて!!中学生が高校生のサイズに勝るわけないじゃない!後よく分かんないけどなんか悲しい!

「あれ?!洗い終わるのはやっ」

喋ってる間も洗い続けたら早く終わるに決まってるじゃん。何よりそうさせてるのは夏希お姉ちゃんだよ。この場にいたら更なる変態発言のようなものをされかねないから。
全てを洗い終えてお湯に浸かり、10秒ほどで立ち上がる。なんていい湯なんだ。でも仕方ない、ゆっくりしてたらダメだ。危ない。

「ちょっとなまえちゃん!!まだ出ちゃだめ!あと私の発言に怒ってるならちゃんと謝るから!」

少し申し訳ないかな、という思いもするがまだここでの生活初日。帰るまでには最後まで一緒にお風呂に入ってあげようとこっそり誓って、夏希お姉ちゃんに苦笑を見せて風呂を後にする。

「行っちゃった…」

夏希お姉ちゃんの声が、切なく風呂場に響いた。


(佳主馬side)

結局動くのが面倒臭くて、麦茶は取りに行ってない。何度か深呼吸したら落ち着いて仕事に集中することができたから、そこからはただひたすら作業した。が、そろそろ喉の渇きが限界を迎えそう。熱中症で倒れるくらいなら立ち上がろうか。軽い脱水症状を感じなから、麦茶のおかわりをしに行こうと冷蔵庫のある台所まで向かう。

行く時に風呂場の前を通るんだけど、もわっと白い湯気が漂ってるのを見つけた。誰か入ってるんだ。僕はいつ入ろうかな。きっと誰かが呼びにきてくれるだろう。
でも湯気が廊下に立っているのはおかしい気がした。だって、普通人が入ってたら扉は閉まっているものじゃん。
誰かが開けっ放しにしてるのかな。とんだ奴だ。もしもの事を考えて絶対に横を見ないように決めて通り過ぎようとしたら。

「夏希お姉ちゃんの馬鹿」

パジャマに着替えようとする迷子の彼女がいた。あ、まずい。

「へんた…い」

目があってしまった。僕は何事もなかったように廊下を進んで行く。ちょっとまずいかな。

「あ、さっきの人…って、うわああああ!!」

背後で彼女の悲鳴が響き渡った。

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