白石くんと雪降る帰り道


今年の冬は全国的に雪がすごく、大阪にもついに雪が積もった。5ヶ月前まで過ごしていた東京でも同じように雪が積もったらしく、連日ニュースが騒がしい。
日中は晴れるかと思いきや、またしても雪がしんしんと降り始め下校時刻にはかなりの大粒で降り注いでいた。
赤くなる耳と鼻を覆うようにマフラーを巻き身震いをする。これから戦場に赴く気持ちだ。カイロはすでに暖かくない。よしっ、と靴を地面に投げまずは冷えた靴に足を慣らす。あぁダメだ体温が持っていかれる。顔のパーツが真ん中に寄っていると思うがそんなことは気にしてられない。
第2関門は足を踏み出す、だ。一歩また一歩と感覚のない足を動かす。さて頑張ろうと校門へ歩き出すと私を呼ぶ声がした。

「おっみょうじ。今から帰りか?」

テニス部の白石だ。転校してすぐの頃、席が近くよく気にかけてくれてから話すようになり、席替えをしても仲良くしてくれるいい人。

「あれ白石だ。そう、帰るとこ。部活は?」
「テニスコートが使えへんしこないな大雪やからなぁ、練習はナシで今日は大人しく帰宅や」
「また降り出したもんね。滑らないように気をつけないと」
「俺は大丈夫だとしてもみょうじはなぁ。ドジやから転けてまうわな」
「そうやって言った本人が転ける落ちだな」

白石と雑談しだすとなかなかキリがつかないので、雪も降ってきたし今日は無理やり区切りをつけよう。じゃあお互い気をつけて、と真新しい雪の上に足を突っ込もうとすれば慌てたように白石が後を追ってきた。

「ちょい待ち、暗いし送ってったるわ」
「え?いやいやいいよ!そんなに遠くないし!」
「あかん、そういう油断が命取りやで。雪雲のせいでいつもより暗なっとるしここで会ったんも何かの縁や。家確か前方面一緒や言うとったな?」
「うん、確かそう。よく覚えてるね」
「俺の記憶力舐めたらあかんで」

結局白石の押しに負け、学校を出る。
さく、さく、と二人の足音が響き、それから確か雪は音を吸収するんだったっけ、とふと昔どこかで聞いたことを思い出した。
確かにいつもはうるさいくらい聞こえる車の音や、どこかの家から聞こえる日常の音が今日はやけに静かだなと思った。

「なぁみょうじ」

だからだろうか、白石の声はやけに大きく不思議と耳に届く。
学校を出るまではうるさかった白石は、足を進めるにつれ静かになっていったから余計にそうなのかもしれない。

まるで私と白石の二人しかいないみたいだ。

「なに?」

「あー、いや、そのー」

歯切れが悪く、巻いたマフラーに顔を埋めて視線を彷徨わせている。
私より背の高い彼を見るために、首を縮めながらも視線を斜め上にあげた。
赤い顔が見えた。マフラー巻いても寒いから仕方ない。痛くないのかなと疑問に思っていると、白石の顔が少し上を向く。はぁ、と一つ白い息を吐いた。

「みょうじは、好きな人とか、おるん?」

その横顔があまりにも綺麗で、たった今白石蔵ノ介という男に心臓を射抜かれた。


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