仁王くんと雪の日


「やっぱり休日になんでアンタとショッピングモールに来なきゃいけないのか分かんないんだけど」
「なら断ればええじゃろ」
「よく言うよ、私断ったのに」
「プリッ」

私は今この通りクラスメイトの仁王雅治と(何か特別な関係でもないのに)二人でショッピングモールへ来ている。
クラスでもとびきり仲がいいとか、そういうわけでもない。普通。どちらかといえば喋る、の部類に入る彼が突然話しかけて来たと思ったら週末一緒にショッピングモールへ行こうと口にした。
あまりにも唐突すぎて開いた口は塞がらず、返事はもちろんノー。まぁとりあえず予定は空けときんしゃいと言われ、インドアだし言われなくても週末は家で過ごす予定があるんだよと昼まで寝るつもりが9時過ぎに家のインターホンが鳴り、母が出ると私と出かけるとアホ仁王が伝え彼氏だと勘違いした母が私を飛び起こし、よく分からないまま急いで準備させられ極寒の外へ追い出された、というわけだ。
なのですごく機嫌が悪い。布団が恋しい。こたつが恋しい。いつになったら帰れるのか。

「で、何がしたいんですか仁王サン」
「仁王サンとは他人行儀やのう。ラケットのグリップテープ買えたらあとはお前の行きたいところを回るだけじゃき」
「行きたいところなんて家しかないんですけど」
「ほぉ、お前さん大胆だな」
「わ が や に 、ひ と り で 、 か え り ま す」
「まぁそう言わんとせっかく可愛い格好をしとるんだからアクセサリーの一つでも見てみたらどうじゃ」

こいつ今可愛いって言ったか?まぁ悪い気はしないし少しくらい見てやってもいいかな。別に自分のためじゃなくて友達がいなくてテニス部の友達にも構ってもらえない哀れなクラスメイトのためだからな。
グリップテープとやらは5分もしないうちに買えたらしく、テニスラケットって高いんだなと呑気にディスプレイを見ていたら、背後から今度はお前の番だと言われぶっちゃけ殺害予告かと思った。
びっくりして心拍数がまだ高い心臓のまま仁王の後ろをついて歩く。何故か仁王がアクセサリーを見ていて店員さんが何度も奴を見ていた。クソ、こいつ顔はいいんだよな…

「そんなところに突っ立ってないで何か気にいる物を探しんしゃい」
「あーうん」

私みたいなのがこいつの隣でアクセサリー見てていいのか?しかもさっきから選んでは私の頭に合わせたり服と小物を合わせたりしている。そしてそれのセンスがやけにいいし私のドストライクだ。
最終的に私は選ぶことを放棄し仁王が選んだ中から気に入ったものを選んでレジへ向かった。

「おまたせ。てかもうそろそろ帰っていい?昼ごはんも食べてくなんて言わないよね?」
「食べていきたいんか?」
「お断りしますうちの昼今日好物が出る予定なんで」

じゃあ、と現地解散だと歩き出すと隣を仁王が歩いている。何やだ怖い。

「家どこなの?」
「同じ方向」

嘘くせえ。
あまりにも嘘くさいけどコイツに反発したところで逆方向に帰るわけもない。同じ方向なだけで途中で曲がるかもしれないし急用で消えるかもしれないし。コイツの携帯に急用の連絡が来ることをひたすら祈りながらいつもより早足で歩く。

追い出されたせいでマフラーも手袋もないため、コートのポケットに手を突っ込んで肩を縮めた。追い討ちをかけるように雪がちらつき始める。
すると仁王は紙袋を何やら漁ったと思ったら出てきた黄色いチェックのマフラーを私に差し出してきた。

「え、なに?」
「お前さんのじゃ」
「私そんなの持ってないけど」
「これからはお前さんのものじゃき」

私が受け取らずにいると勝手にぐるぐると首に巻き始め思わず立ち止まる。
仁王の手が顔にあたり、少しあったかくて腹が立った。
顔をしかめされるがままにいると、その手が思い切り頬に触れる。両手で頬が包み込まれ激しく動揺した。

「はっ、なっ、仁王!?」

「…お前さん、体温低いのお」


お前のせいで急上昇したわ。


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