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 二人の戦闘員が艦を飛び出したあと、研究室内は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。ここには、分厚いガラスと防護服に護られた状態でしか感染者と遭遇したことのない者がほとんどだ。ミーティアとて、生身で感染者と対峙することは滅多にない。
 一人や二人の感染者でも嫌悪される存在だ。なまじ知識があるだけに、過剰に恐れてしまう部分があるのも否めない。それが通常では考えられない徒党を組んでの襲撃となれば、パニックになるなという方が無理だった。しかし、我先にと流れ込んでくる白衣の男達を見ていると、どうにも苛立ちが募ってくる。部屋の隅で鳩を抱いて震える子供のような男も例に漏れない。

「外から戻った者はさっさと洗浄なさい! 心配なら薬飲めばいいでしょう! ちょっと、うちの防衛員はどうなっているの!?」

 怒鳴りつけても返ってくるのはあやふやな返答ばかりだ。
 ――使えない。

「いい加減になさい! テールベルトの軍人がたった二人で外に出たのよ! ビリジアンの人間が日和ってどうするの!」

 外の様子はモニターを通してすでに確認している。高度感染者が五名も発生し、そのうち確実に三名がレベルS感染者だ。それは残る二名にすぐに伝染することが容易に想像できる。
 つまりは、殺すしかない。ヴァル・シュラクト艦は頑丈だ。あれしきの感染者の攻撃で壊れるものではない。しかし、彼らを野放しにすれば確実にこのエリアの生物に被害が及ぶ。植物、動物、そして人間。集団感染を引き起こされでもすれば、それは自分達の責任問題にもなりかねない。
 どうしてそこまで頭が回らない。苛立ちに任せて椅子を蹴り飛ばしてやりたくなった。壁にかかった短機関銃を引っ掴んで走り出るような男は、どうやら乗り合わせていなかったらしい。呆れと嘲笑の混じった溜息を吐いたそのとき、通信士の一人が震える声で叫んだ。

「き、寄生体駆逐完了、計五体! 感染者二名! 回収を、とのことです!」
「彼らは?」

 速い。モニターに目をやるが、途中からカメラに血液や体液が付着してよく見えなくなっていた。

「両名とも軽傷、それも掠り傷程度だと……。今から洗浄に入る、と……」
「そう。なら洗浄は彼ら優先になさい。念のため検査もちゃんとして。それから、ホーネットとシミター、ジャベリンは防護服に着替えてアタシと来なさい。回収するわよ」

 優秀な三人の部下はすぐさま踵を返し、防護服を着替えに走った。他の研究員達は彼らを気の毒そうに見送っている。通常、回収作業は研究員の仕事ではないからだ。
 ミーティアは眼鏡を押し上げ、涼やかな顔に冷たい微笑を張りつけた。部屋の隅で小さくなっていたハインケルが、ひっと息を飲む。「まったく……」

「――お話にならないわ」



 ただの有機体となり果てたそれを淡々と回収し、ミーティアは洗浄もすべて済ませて一人自室に籠っていた。回収した寄生体はしっかりと核も破壊されており、これ以上の被害を拡大させる恐れはなかった。ナガトとアカギ両名も、検査の結果感染の疑いはない。今はハインケルと共にあちらの艦に戻っている。
 データと何度も睨み合いながら、キーを叩き続ける。出てきた数値にどうも納得がいかない。一見すればなんの変哲もないレベルS感染者の数値と変わらないが、どこか引っかかる。
 それは勘にも等しい感覚だった。だが、今までこの勘が外れたことはない。「アタシが」おかしいと思ったのだ。なにかあるに違いない。今までの知識と経験から基づいた結果、そういった考えが導き出された。自分が完璧だと思ったことはない。完璧などあるはずもない。できないことは山ほどある。だが、人並み以上にできることも多々あるのだ。
 
「理解できないわね……」


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