▼お見舞いとベッリーナ
「アデレード。林檎を買ってきた。すりおろしてやるよ。お前、好きだろ」
「アデレード。フルーツより身体を温めた方が良いだろう?今スープを作ってやる」
「何でお前がここにいるんだ、ブチャラティ」
「その台詞そっくり返してやるぜ、プロシュート」
「……今あなたたちに構っている余裕ないから帰ってくれない?」
珍しく化粧をしていないアデレードはソファの上でブランケットにくるまって、たった今揃ってやってきた二人の男のやり取りをぼんやりと眺めていた。ハァ、と溜め息をつけば普段より熱い息が漏れ、熱のせいなのは重い頭と背筋を走る寒気で分かる。クシュン、と小さなくしゃみをすれば、ピタリと言い合いは止んだ。
「顔色が悪いな」
「ベッドで寝た方がいい」
「オレに掴まれ」
「いや、オレが運ぶ」
「……二人とも退いて」
結局プロシュートとブチャラティは二人がかりでふらふらと寝室へ向かうアデレードを両脇から支える。ベッドに寝かしつけ布団をかけてやると、アデレードが熱で潤んだ視線で二人を見上げた。
「……早く帰ってちょうだい」
「アデレードとコイツを残して帰れねぇ」
「お前の方が危険だろ」
「いいから帰りなさいよ……もう、レオが来てくれれば良かった……」
『何でアイツなんだ』
「……そういう所だけ息ぴったりなのね……馬鹿みたい……。もう寝たいから出てって」
布団から少しだけ出した手をひらひらと振って目を閉じれば、二人は寝室から出ていった。
その後も何やらヒソヒソと言い合う声が聞こえてきたが、一度閉じた瞼は開く事はなくアデレードは深い眠りに落ちていく。
激しい悪寒の後ぐっしょりと汗をかいた事で、ふわりと意識が浮かびアデレードは目を開けた。汗で濡れた服とは裏腹に頭の重さはなくスッキリとしている。ゆっくりベッドから下りて寝室を出れば、ソファとカウンターチェアにそれぞれ座っていたプロシュートとブチャラティと目が合った。
「起きて大丈夫なのか」
「何か欲しいものはないか」
「大丈夫よ。水が欲しいの」
アデレードの言葉にプロシュートはブランケットを彼女の肩にかけてやり、ブチャラティは冷蔵庫から水を出す。アデレードがグラスの水を半分ほど飲んでから、二人の顔を交互に見た。
「あなたたち、結局帰らなかったのね」
「オレたちが帰っちまったらお前ひとりになるだろうが」
「弱っている君をひとり残して帰れない」
「帰れ、とかまだ言うんじゃあねえだろうな」
「今日くらいアデレードの傍にいさせてくれないか」
「静かにしているなら、いてもいいわよ」
アデレードはそう言い残して寝室へ戻っていく。意気揚々と彼女の後についていく二人に、ドアの前で振り返ったアデレードが眉をひそめた。
「……着替えるの。ついてこないで」
バタン。
寝室のドアが無慈悲な音で閉じる。ドアの前でプロシュートとブチャラティは互いに睨み合ってお前のせいだと擦り付け合うように言い合いを始めると、ドアの向こうからアデレードが話しかけてきた。
「ねぇ、お腹が空いたわ。ブチャラティ、スープを作って。プロシュート、林檎はカットして」
ドタバタと足音を響かせキッチンからガタガタと物音が聞こえ始めると、アデレードはひとり溜め息をついたのだった。
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