▼57:ガッツとベッリーナA

トリッシュが亀の中で着替えている隙にこれからの事を決めておく事が先決だと考えたアバッキオがブチャラティを見る。

「ブチャラティ、これからどうするんだ?」

「ボスのスタンドは明らかに時間を消し去り、そしてその中をボスだけが自由に動いていた。“無敵”だ。どう考えても何者だろうとあのスタンドの前ではその攻撃は無駄となる。ただし、ボスの正体を突き止めた時は別だ!ボスの素顔さえ知る事が出来れば……!こちらからの本体への暗殺の可能性が出てくるからな。なんとかしてボスの正体を知らねばならない!」

ブチャラティの決めた事に従うつもりのメンバーだが、やり方としてはいまいち解らないミスタが口を開いた。

「しかし……どうやって探すんだ?ボスはあらゆる“人生の足跡”を消して来てる男だぜ……」

「でも全部の足跡を消す事は出来ないわ。事象として存在するものを無かったことには出来ない……トースト一枚焼いたってその匂いは残るものよ。何か手かがりがある筈だわ」

「トリッシュだ!トリッシュに何かヒントがあるんだぜ。みんなトリッシュを追い、そしてボスはトリッシュも始末しようとしていた!」

誰しもが頭の片隅で思っていても口に出す事を憚られていた事実をアバッキオが言葉にする。
肯定するかのようにぐっと黙るメンバーを見て、更にアバッキオは「だろ?」と念を押した。

「オ、オレ……その事だけど……や、やだな。これ以上トリッシュを巻き込むのはやな気分だよ。トリッシュは何も知らねぇ!実の父親に殺されそうになったと知ったらきっとものすごいショックを受ける」

それまで黙って聞いていたナランチャが抱えた頭を横に振る。彼らはまだ目醒めたトリッシュと会っていない。食事は全てアデレードが運び、目を醒ましたトリッシュはそんな素振りを見せずに何も聞かなかった。

「なんて説明する気だい?父親に裏切られたんだぜ、ブチャラティ!お願いだよ。ボスの正体だとかそう言った話は隠しておいてやってくれよ」

ナランチャの必死な訴えはブチャラティも解る。気持ちとしては同じだが、このままずっと秘密にしておく事も出来ない。

「その必要はないわ、ナランチャ」 

その時、亀の中から声がしてトリッシュが出てきた。
ブチャラティに取り付けられた手首を見つめながら、その声には堅い意志が滲み出ている。

「もう既に……理解しているもの……さっきから……。思い出したわ。“人生の足跡を消している”という言葉で。私の母は昔父親とはサルディニアで知り合ったと言っていたわ。私が小さい頃、昔話で母からチラリと聞いた事がある。母親が旅行した時に知り合い、母にすぐ戻ってくると言ったきり写真も本名も何も残さずに消え去ったのよ」

トリッシュが語る思い出は間違いなく有力な情報であり、他に行く宛もない彼らにしてみれば、もう行き先はサルディニアしかない。

「サルディニア。ボスが組織のボスとなる前……15年前!ひょっとしてボスが生まれ育った場所か?」

アバッキオは頭の中でトリッシュの年齢を引いてみて推理し、トリッシュも頷いた。

「サルディニアよ。サルディニアには過去と正体はきっとある!」

「なぜオレたちに教える!?オレたちは君の父親を殺すかもしれない……いや、倒そうと決意しているんだぞ!」

折角のヒントを得ても尚、トリッシュの事を想うブチャラティの言葉にアデレードは彼らしいと思った。
なぜかなどとトリッシュに尋ねたところでボスである彼女の父親を倒す事は変わらない。それでも確認せずにはいられないブチャラティの真っ直ぐさがアデレードには眩しい。

「倒すとか倒さないとか私にとっては別問題だわ。私はどうしても知りたい!自分が何者から生まれてきたのかをッ!それを知らずに殺されるなんてまっぴらゴメンだわッ!」

「ナランチャ……どうやら彼女……オメーが考えている以上にタフな精神力のようだな」

トリッシュの気高い想いの強さにアバッキオすら認めるように彼女の意志を尊重した。
このヴェネツィアを脱出しサルディニアへ向かえば、ボスの正体が解る。そう思っていたメンバー全員の一番後ろでトリッシュを気にしていたナランチャはこれ以上トリッシュが傷付かなれけばいいと思っていたその時持っていたスプーンがいつの間にか消えた。
落とした覚えもなく音もしなかった。テーブルの下やスープ皿の下など見てみたが持っていた筈のスプーンは見当たらない。ナランチャは仕方なく隣のテーブルにセッティングされていたスプーンを取って、食事を続けた。
手の感触などを確かめながらおかしいなぁとスープをスプーンでかき混ぜていると、皿の底でカチンッと鳴るものがあった。
ナランチャが不思議に思ってスプーンで掬ってみると、何かの金属片のようなもので、よく見るとそれはスプーンのようだった。噛み千切られたような破片はポチャンとスープに落ちると、突然ばちゃばちゃとスープの表面が跳ね上がり、サメの背鰭のようなものが現れてスープの中を泳いでいる。

「敵だ。敵がいるぞッ!」スープの中に……サメがいるッ!」

ナランチャはそう叫ぶと、すぐさまエアロスミスを出してスープに向かって撃った。
ナランチャの攻撃に気付いた他のメンバーはトリッシュを囲むようにして護る体勢に入る。アデレードもトリッシュの身体に覆い被さるように身を呈して護った。

「アデレードッ!トリッシュと共に亀の中へ戻れ!ジョルノは亀をッ!アバッキオは右ッ!ミスタは左を護れッ!」

「Si!」

ブチャラティの指示にアデレードはトリッシュと共に亀の中へ入る。
今はトリッシュの身の安全とこのヴェネツィアから全員で脱出する事だけを考えればいい。
アデレードはそう思いながらも天井をじっと見つめている。
そんなアデレードたちの事を遠くから見つめる者たちがいた。
一方は双眼鏡を覗きながら楽しそうに笑い、もう一方は狙撃銃のスコープを覗きながら照準の調整をする。

「見ィ〜つけた……!」

「プロシュートが出しゃばってくれたお陰で探す手間が省けたな」




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