▼39:ベィビィ・フェイスとベッリーナA
ベィビィ・フェイスと共に現れたメローネの言葉にブチャラティは驚き、アデレードとメローネを交互に見た。
「どういうことだ?」
「なんだ、まだ話してなかったのか?」
「今話そうとしていたところ。ブチャラティ、私が気にしていたのは今メローネが言ったことよ」
「“ボスの本当の狙いは娘を……”」
「それ以上口に出すことは許されない。俺たちはそんなことを考えなくていい!確証のないことを軽々しく口にしないでくれ」
にたりと笑うメローネの言葉をブチャラティがピシャリと撥ね付ける。メローネは笑顔を引っ込めると肩を竦めた。
「……プロシュートの見込み違いか」
「なんだと?」
「娘の命の心配はしないってことだろ?」
「確証がないのに不安だけ煽るのは得策ではないと言ったんだが」
「確証なら娘が死んだときに得られるぜ」
「やめて、メローネ。喧嘩を売りに来たんじゃあないでしょう?」
一触即発の雰囲気にアデレードが間に入る。いつまでもこんな所に留まっているのは危険だ。
「そうだな。足がないだろうと思って迎えに来たんだった」
「これに乗って行けってこと?」
「これは俺のバイク。運転するのはベィビィ・フェイスだ」
「じゃあ」
「亀を寄越せよ。途中まで俺が持っててやる」
メローネが差し出した手にアデレードが亀を渡そうとするとブチャラティがそれを止めた。
「信じられないって顔だな」
「お前が運転しろ。後ろには俺が乗る」
「男と2ケツなんてごめんだな。それにスタンドには俺の指示が必要だ」
「……運転はメローネの言うとおりベィビィ・フェイスに。後ろには私が亀を持って乗るわ」
「Bene!アデレードトデート、嬉シイ!」
「デートじゃあないのよ、ベィビィ・フェイス」
アデレードは抱きついてくるベィビィ・フェイスの頭を撫でた。メローネが肩を竦め、ベィビィ・フェイスに安全運転でな、と指示を出す。
「これで満足だろ、ブチャラティ」
「亀の中にこいつを入れるのは不安だが……」
「あら、あなたがこの子と一緒にこれに乗って行ってもいいのよ?ブチャラティ」
「……君の言うとおりにしよう、アデレード」
「Si.Andiamo.」
「おっ、亀の中に入るのか。中々興味深いな。その前に……ベィビィ・フェイス。俺のパソコンを出せ」
「Si.メローネ」
メローネの指示にベィビィ・フェイスがバイクからキューブ状になったパソコンを取り出して組み立て直す。
「……不思議な能力だな」
「中でゆっくり“教育”してやるよ」
メローネがべろりと舌舐めずりをして、亀に入っていく。
「……不気味な男だ。トリッシュに近付けて大丈夫だろうか」
「言うほどそうでもないけれど、若い女を見ると人が変わるから刺激しない方がいいわ。それでなくても今のトリッシュは気が立っているから」
「そうだな。……さっきの事なんだが、」
「口に出してはいけないのでしょう?解ってるわ。私の思い過ごしならそれでいいの。いつも最悪なことを真っ先に考えてしまう。そう教わったから」
「……プロシュートにか?」
「……Si.」
ブチャラティはアデレードの返事に聞いたことを後悔し、黙って亀の中へ入る。
アデレードはベィビィ・フェイスに促されて、バイクの後ろに乗った。
バイクは土埃を巻き上げてフィレンツェ方面へ走り出した。
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