▼38:ベィビィ・フェイスとベッリーナ@
「Stammi bene,アデレード」
「……Anche tu,caro.」
アデレードがブチャラティと共に列車から降りた。
減速しているとは言え、走行中の列車から飛び降りるのは危険すぎる。外は薄暮、アデレードのスタンドを完全に出すまでには影の量が足りない。
亀を抱えているブチャラティの手を取り、アデレードは地面に落ちる寸前でスタンドを出した。一瞬だけ姿を現したシャドウ・デイジーの身体が緩衝材となる。と同時にそれとは別に他の力が加わった。アデレードはブチャラティのスティッキィ・フィンガーズだと思った。
「!?」
「トリッシュ!亀から出てきてはいけない!」
ブチャラティが地面に座り込むトリッシュの姿を見て亀を出した。だがトリッシュは中々亀の中へ戻ろうとはせずに、じっと地面に手を翳して黙っている。
「トリッシュ、どこか怪我をした?気になることでも?」
「……聞きたいことがあるんだけど答えてもらえるのかしら?」
アデレードがトリッシュに寄り添うと、彼女はアデレードとブチャラティの顔を交互に見て言った。
「君の方からの質問に答える事は許されていない。何度も言うがオレたちの任務は君の護衛だけだ」
「どうしても……答えてもらうわ……。あたし、一体何者なの?何故最近急に奇妙な物が見えるようになったの?何よこれは!?この地面はなに?」
見れば先程トリッシュが手を翳していた地面には爪の長い大きな手形がシューシューという音を立てて焼き付いていた。
アデレードもブチャラティもその手形をじっと見つめては背筋に嫌な汗が流れていくのを止められなかった。
「何故私は知らない父親の為に追われるのよッ!?答えなさいッ!!」
トリッシュが自分でも気づかないうちにスタンドを出現させた事は、ブチャラティとアデレードにとってある程度予想していたことだがそれを知ることも彼女に教えることも出来ない。
「トリッシュ、君の質問に答える事は許されていない」
「いいから答えなさいッ!!」
「……トリッシュ。ひとまずここを離れましょう。先を急がなくては」
アデレードはトリッシュに手を差しのべたが彼女はアデレードの手を取ることなくひとりでに立ち上がると亀の中へ戻った。
二人は線路沿いをフィレンツェ方面へ歩き始める。
「……ブチャラティ。あなたに話しておきたいことがあるわ」
「プロシュートと会って何か情報を得たか?」
「Si.でもそれだけじゃあないの。私がずっと気になっていたことをあなただけには話しておきたいわ」
「気になっていたこと?言いにくいことか?」
「彼女の前では特に。でも今なら腹が立っているだろうからこちらにまで気は向かないと思うから……」
「Capito.」
アデレードはプロシュートから得た情報をブチャラティへ伝える。
情報チームの男のこと、トリッシュの家が既に荒らされていたことなどだ。
「プロシュートは彼女を拐おうとしたのはボスからの命令を直々に受けた誰かじゃあないかと思うと言っていたわ。私はそれが親衛隊だと思う」
「待ってくれ。ボスは彼女を探して見つけ出し、その彼女をペリーコロさんに託し、ポルポの代わりにオレたちに護衛を任せた。親衛隊の中に裏切り者がいるのか?」
「È sbagliato.恐らくそうじゃあない。ペリーコロさんは本当の事を知らされていなかったのか彼女を見て気の毒になったのか……理由は解らないけれど、彼はボスの真の目的とは違う行動をしたのは事実よ」
「……解らないな。アデレード、君が気になっていたこととは何なんだ?」
「それは……」
ブチャラティの澄んだ青い眼にアデレードは珍しく言い淀む。
そこへバイクのエンジン音が近付いてきた。二人は音のする方を振り向くと一台のバイクがやってくる。ヘルメットをしていないので、運転手が誰だかアデレードには直ぐに解った。彼の背後にトゲ頭が見える。
「チャオ、ベッラ!」
「Come stai?」
「Sto bene,grazie.」
お決まりのやり取りの後、アデレードはブチャラティにメローネとベィビィ・フェイスを紹介した。
ブチャラティの挨拶もそこそこにメローネが「そんなことより」と話を切り出す。
「“ボスの本当の狙いは娘を自ら殺すこと”って本当か?アデレード」
メローネの直球な話にブチャラティは眼を丸くし、アデレードは深い溜め息をついた。
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