▼37:偉大なる死とベッリーナD

パンッという乾いた破裂音が列車内に響く。
その瞬間列車が大きく傾いて、アデレードが発砲した銃弾はズッケェロのこめかみを掠めて後ろの壁に当たった。
“何か”にぶつかったような列車は前に走ろうとして揺れがガタガタと続いている。

「このままじゃあ脱線しちまう!」

「どうなっていやがる!?」

ブチャラティとプロシュートがズッケェロに詰め寄ったが、こめかみから血を流しながらもガリガリに老化したズッケェロはニタニタと笑った。
その笑みを見ていたアデレードがハッと気付いて、窓の外を見た。
一台の車が猛スピードで列車と並走している。
アデレードの予想通り、運転席にはサーレーがいた。

「サーレー!!」

「こいつの仲間か!」

「列車の外にいやがったのか!連絡を受けて来たってワケか……!」

アデレードたちの姿に気付いたサーレーが窓から何かを投げつけた。
一瞬警戒したがそれはアデレードたちには届かずに線路へと落ちると、再び列車が嫌な音を立てて揺れる。

「何だ……?」

「石のようだったが……」

「石?……まさか!」

サーレーのスタンド能力を思い出したアデレードが彼らの狙いに気付いた。

「線路や車輪に小石を固定させて列車を停めるつもりね?」

「小石を固定させる?それがヤツのスタンド能力か」

「Si.」

列車は確実に速度を落としている。並走する列車にサーレーの車は横付けしていて、今にもサーレーが飛び移ってきそうだった。
プロシュートがアデレードの手から銃を奪ってサーレーに銃口を向けた。

「銃弾も固定されるのよ!?」

Lo so.(解ってる)だからいいッ!」

ガンガンガンッ!と連続で発砲された銃弾はやはりサーレーのスタンドに固定される。
彼のスタンドであるクラフト・ワークが現れた瞬間、プロシュートが叫んだ。

「ペッシィィィッ!」

「ビーチ・ボーイッ!!」

先程からプロシュートの背後に黙って立っていたペッシが自身のスタンドをサーレーに向けて放った。
不意を突かれたサーレーの腕には釣り針が埋め込まれ、釣糸でペッシと繋がっている。
サーレーは既に上腕に達している釣り針を固定させようとするが、スタンドへの攻撃は返ってきた。

「ペッシィッ!そのまま引き上げろ!」

「解ったよ、アニィ!」

ペッシが竿を立ててリールを巻くと、サーレーの身体は大きな魚のように釣り上げられて列車へと引き上げられた。

「Bene!良くやった!」

サーレーの身体にはペッシのビーチ・ボーイの糸がぐるぐるに巻き付きギリギリと締め上げ、ズッケェロの身体はプロシュートのザ・グレイトフル・デッドの効果によって干からびた土のようである。
二人を捕らえたことに安堵するのも束の間、列車が再びキーキーと嫌な音を立てた。
サーレーのスタンド能力は既に効果を失っているが、あれだけの小石が線路や車輪にあれば何かしらの不具合が起きても何の不思議もない。

「……アデレード、列車を降りろ。こいつらは俺たちに任せろ」

プロシュートがアデレードに言った。
心強く、凛とした表情にアデレードの脳裏にかつての彼の姿が掠める。

Andiamo(行こう),アデレード」

ブチャラティが壁にジッパーを付けた。
入り込む風がアデレードの銀色の長い髪をなびかせる。プロシュートを見つめるアデレードの表情は彼からは良く見えなかった。

「Stammi bene,アデレード」

「……Anche tu,caro.」

ジッパーからひらりと列車を降りたアデレードの口元にはまだ美しい笑みが残っていた。
プロシュートはそれを見てフッと笑うと、サーレーたちに向き直る。

「“人生において、諸君には二つの道が拓かれている。 一つは理想へ、他の一つは死へと通じている”……分かれ道を間違えたな」

カツン、と革靴の底が鳴る。サーレーもズッケェロも最早叫ぶことすら出来なかった。

ザ・グレイトフル・デッド(偉大なる死)




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