▼子猫とベッリーナ

夜のネアポリス。空に月はなく一面暗闇である。
酔っ払いやポン引きが彷徨く路地裏の更に奥で黒い獣が駆け抜けていく。
夜の街に黒豹がいる筈もないが、ベルベットのような美しい毛並みと俊敏さから間違いはない。
その黒豹の背には銀髪の美女が乗っている。
シマのカジノでイカサマを繰り返していたチンピラの一人が不意を突いて逃げたのをアデレードが追っていた。
彼女のスタンドであるシャドウ・デイジーは影のある場所なら何処でも移動できる黒豹だ。
周囲の影の範囲が広ければ広いほど体格とスピードが増すため、今夜のような新月の夜には最適なスタンドである。
獣そっくりの体勢で駆けているシャドウ・デイジーの足元を良く見ると影の上を滑っているのが解る。
街灯の灯りで影が途切れようとも一瞬だけ消えるだけで、影に入ればまた姿を現すのだ。
焦ったチンピラが苦し紛れに道端に避けてあったコンテナを倒したが、影を移動しているアデレードとシャドウ・デイジーには効果がない。
その時コンテナの影で寝ていたのだろう、野良猫が衝撃で飛んで来た。
安眠を妨害され、空中でもがいて鳴き声をあげている猫を落下する前にシャドウ・デイジーが口に咥えてキャッチする。
シャドウ・デイジーは首を降ってアデレードに向かって猫を口から離し、アデレードに渡した。

「Bounasera,gattino.一緒にドライブは如何?」

アデレードが冗談のように尋ねれば猫が「miao」と一鳴きする。
アデレードはにっこり笑って、自分のワンピースの谷間に猫を押し込めた。
そんなことをしていてもスタンドを出しているアデレードがチンピラ一人を取り逃がすことはなく、チンピラは呆気なくシャドウの前足の下で這いつくばることとなった。
電話で呼び出したブチャラティとポイントで合流し、アデレードは彼にチンピラを受け渡す。

「さすが夜の女王だな。跪かせるのが上手い」

「……どっちかっていうと全身地面についてるけどな……ッ!」

「黙っていろ。口を開いてもいいと言ったか?」

ジャッ!と金属が噛み合う音が響く。
悪態をつくチンピラの口にブチャラティがジッパーを着けた音だ。
もがくチンピラを気にも留めず、これからのことを話そうとブチャラティがアデレードを見ると、彼女の胸元で何やらごそごそと動いている。
敵かと思えばアデレードがフフフ、と笑い出した。

「あら、ウフフそんなところ触っちゃあ擽ったいわ」

「?何だ?」

「この子よ」

アデレードが自分の胸元に手を入れたので、ブチャラティは慌ててチンピラの両目にジッパーを取り付けた。
狭量な男だと思われてしまうだろうが、服から出ている肌以上にアデレードの肌を誰にも見せたくはないのだ。
そんなブチャラティの男心をアデレードは気にも留めずにワンピースから猫を取り出した。
まだ子猫らしい。金色の目でブチャラティを見て「miao」と小さく鳴く。

「さっきの追いかけっこに飛び入りした可愛い参加者よ」

「羨ましい場所にいたんだな、お前」

ブチャラティがアデレードに抱かれる猫を撫でると、猫は気持ち良さそうに目を閉じて喉を鳴らした。

「ブローノ・ブチャラティという男でも猫相手にジェラシーを?」

「君だからな。無意味だと解っててもしちまうんだ。複雑な男心だ」

「お気の毒ね」

互いにふふと微笑み合い、キスしようと顔を近付けるとアデレードの腕の中にいた猫が前足でブチャラティの顔を止めた。
予想だにしない制止に思わず顔を突き合わせて吹き出してしまう。

「手強いライバルだな」

「本当にお気の毒ね」

「miao」




prev | next

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -