▼シシリー男とベッリーナ
「cagnolino」
可愛いものを呼ぶように言う癖に、その呼び方の前に決して“私の”とは付けてはくれない。
アデレードの手が伸びて俺の髪を撫でていく。
彼女が撫でやすいように少しだけ身体を屈めて目を閉じれば、フフと笑う声がした。
彼女の手に手を重ねればすっぽりと収まる。彼女の心も俺の心に収まれば良いのに、と柄にもなくセンチメンタルなことが頭を過る。
「そう呼ぶならいっそ飼い犬にしてくれ」
「あら、ボスの元から逃げ出すの?」
「どうせ飼われるならアデレードの傍がいい」
「残念ね。私もボスに飼われてる黒猫なのよ」
「お前のような女が飼われているなど信じられないな」
「私のような女って?」
「誰のものにもならない女だ」
「そうね。その通りよ、リゾット。私は私以外のものにならないの」
「だからこそ欲しいんだ。アデレードの為ならこの血から宝石を作ろう」
「出来るの?」
「ヘマタイトくらいなら出来るかもしれん」
ヘマタイトの磁気でアデレードを引き寄せられたらどんなにいいだろうか。
「ねぇ、リゾット。女の子の一番の友達が何か知ってる?」
「さぁ?」
「ダイヤモンドよ」
端から見ると、俺の愛は重いらしい。
だがアデレードという女の前では俺の愛の重さなど紙切れのように軽い。
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