フレアの二次被害


あれだけブツクサ文句を言いながら俺に会いにきていた名前もいつの間にかすっかり丸くなり、二人で会うのが
日常の一部になっていた高一の冬。オフシーズンと言えど、寮住まいの俺に自由は少ない。練習時間の合間に出来た僅かな時間を名前に会うために費やしていたが、遠出が出来ない俺のせいで二人の待ち合わせ場所は相変わらずうちの高校近くの公園だった。

「ねぇ、その指どうしたの」
「昨日の休憩時間にドッジボールやって突き指したんだよね」
「はぁ〜?」

休憩時間にドッジ?小学生男児かよ。そう悪態をつきながら公園のベンチに並んで座る名前を見つめる。右手中指に巻かれた白いテーピングテープは、ヨレることなくきちっと固定されていた。
名前ってそういうの不器用そうなのに意外と綺麗に巻けてるよね。褒めたつもりでそう言うと、名前は指を伸ばしテーピングを見つめながらふふっと笑った。

「一也がテーピング教えてくれたんだ」

昨日は一也に巻いてもらったんだけど、わたしがやるとまだイマイチかな。やっぱスポーツマンはこういうの器用だよねぇ、そう言いながらどこか嬉しそうな様子に思わずムッとする。なんでそこで一也の名前が出てくんだよ。テーピングくらい俺だって出来るし。

「前から思ってたけどさぁ、一也と名前って距離近すぎない?そりゃ幼馴染だからそれなりに仲良いのかもしんないけどさ」
「そう?別に普通じゃない?」
「なんか独特の雰囲気があるっていうか……もしかして昔付き合ってたとか?」

無意識に口にしたのは適当な言葉。思いつきで言った言葉に、まさか過剰反応されるとは思ってもみなかったから。

「な!何言って、んの」
「………マジ!?え、冗談のつもりだったんだけど」
「ちゅ、中学生のときにね、ちょっとだけね!若気の至りっていうかなんていうか…距離が近すぎてお互い好きなのかどうか分かんないまま付き合ってただけ!ただの幼馴染の方がいいって気付いて、す、すぐ別れたし!」

珍しく早口でよく喋るじゃん。これは後ろめたい事があったときに誤魔化そうとする防衛規制だよね。そうなんだ、マジなんだ、へぇ。
自分の中にふつふつと湧き上がる感情を必死に押し殺しながら名前を見つめる。だけど自分でも驚くほど冷静に、俺は次の言葉を口にしていた。

「…ふーん、ソレ、今まで黙ってて俺と連絡取ってたってわけだ」
「あ、アンタに関係ないじゃん」

この期に及んでそう強気で突っぱねられて、さすがの俺もカチンと来た。ずっとそうやって隠してたわけ?つーか一也も一也だろ、なんでそんな大事な事言わねーの?中学の時っていつからいつまでだよ。俺と初めて会った時には既にそういう仲だったの?
聞きたいことがありすぎて考えが纏まらない。こんなにムシャクシャすんのは夏の甲子園ぶりだ。

「ねぇ、なんで名前で呼んでくんないの?」
「はぁ?いきなり何」
「一也とどこまでシたの?」
「な、なんでそんなこと言わなきゃなんないの」
「キスは?したの?」
「〜〜っ」

ベンチの端に追いやるように詰め寄って問い質すと、俺の気迫に観念したのか名前はそっぽを向きながら小さな声で白状した。

「…そりゃキスくらいするでしょ」

さも当然、そんな風に言われてついカッとなる。思わず顎を引き寄せて無理矢理キスすると、目の前の名前は目を丸くして驚いていた。

「な、何すん、」
「ムカつく」

こんなんじゃ気が済まない。まだ足りない。腕を引いて身体を引き寄せ、後頭部に手を添えながら噛み付くようにキスしてやった。思わず逃げようとする名前を許すまいと、何度も何度も、強く深く。

「ん、やっ、痛いってば!」

さすがに激しすぎたのか、抵抗する名前から鳩尾にパンチを食らわされて距離を取られた。今のめっちゃ痛かったんだけど!?
キッと睨むも、名前は顔を赤くして興奮しながら俺のことを睨み返してきた。

「いきなり何すんの?バカじゃない!?」
「名前のこと好きだからに決まってるじゃん!分かんないの?お前バカ?!」
「は…はぁ!?ふざけないでよ、頭おかしいんじゃない?」

こんなめちゃくちゃな告白、自分でもどうかしてると思う。だけど叫ばずにはいられなかった。

「…本当にふざけてると思ってんの?」

何の下心もなしに何度も呼びつけるわけないじゃん。普通気付くだろ、どんだけ鈍チンなんだよ。
追い討ちをかけるようにそう呟くと、名前は顔を真っ赤にして逃げるようにこの場を立ち去った。
いい加減分かれよ、バカ名前。


(20210112)
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