公転軌道の修正について


「ハァ…」

2限の授業開始まであと数分となった休憩時間。ここ最近、元気しか取り柄のない幼馴染の溜息が増えたのは決して気のせいなんかじゃないと思う。これで本日7回目だ、いくらなんでも多すぎる。そんでもって、その理由に心当たりがないこともない。

【名前がいつまで経っても俺のこと名前で呼んでくんないんだけどどーゆーこと!?】

随分前に送られてきたけど忙しくて返信してなかった鳴からのメール。それを目で読みながら再び名前に視線を戻す。相変わらず上の空で溜息を吐き続ける様子を見て呆れる他ない。当事者同士で話をつければ早いものを、子供じゃあるまいし揃いも揃って本当に何やってんだか。全く、いつまで経っても手のかかるヤツだな。

「らしくねーな、なーに悩んでんの」
「えー…別に、大したことじゃないよ」
「どーせ鳴のことだろ」

その名前を出した途端に名前の肩がぴくりと震えた。はいビンゴ。自覚してんのかどうか分かんねーけど、ここのところ鳴に呼び出されても以前のように文句を言うことはなくなったし、むしろ楽しんでるもんな。
大方、鳴のことを受け入れ始めたけど今までの関係とのギャップに葛藤してモヤモヤしてるってところだろう。あるいは、ライバルである稲実の鳴と自分が連絡を取り続けてることに何らかの罪悪感を感じ始めてるか。まぁ、今のところは前者が有力だろうと思うけど。

「なぁ、なんであいつのこと名前で呼ばねーの?」
「呼んでるじゃん、成宮って」
「いや、苗字じゃなくて名前な。鳴だって名前のこと名前で呼んでるだろ」
「…呼びたくない」

そう言うと名前は軽く俯いて黙ってしまった。それを覗き込むようにして視線を追いつつ、更に追求する。

「だから、なんで」
「〜っ、今更名前で呼ぶのが恥ずかしいからだよ!」

勢い良く顔を上げたかと思えば耳まで赤くして怒る様子に思わず拍子抜け。えぇ、そういう反応しちゃう?名前呼びってだけで?オイオイお前そんなキャラかよ、どーしちゃったんだよマジで。
そうは思ってもこのウブな反応はガチのやつ。面白くなってきたじゃねーか。

【心配しなくてもそのうち名前で呼ぶようになるだろ】

いずれ訪れるであろう未来を読んで、くつくつと笑いながら敵に塩を送る思いでそうメールを打ち込む。お前が悩むことなんて何もねぇから、大人しくその日を待っとけよ。
送信ボタンを押してケータイを閉じると、一連の行動を見ていたらしい名前と目が合った。

「なに笑ってんの」
「いやぁ?意外に照れ屋だねぇ〜と思ってな」
「はぁ!?」

俺の返事が気に食わなかったのか、途端に怒りを露わにする名前。それを見て、今自分がどんな顔をしてるか容易に予想がついた。自分で言うのもアレだけど、ニヤリと笑う顔からは底意地の悪さが滲み出てんだろーな。 


(20210109)
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