落日は誰を照らすのか


今度こそ絶対に許さない。成宮の活躍をテレビで目にする度そう思っていた、はずだった。

「鳴のやつ相当へこんでるらしいな」
「う、嘘だぁ」
「寮に引きこもってるって聞いたけど」

だけどあの成宮も人の子だったらしい。甲子園という夢の舞台で自分の暴投が原因となり、敗北を味わったショックから目も当てられないくらいに落ち込んでしまったとか。そんな噂を一也から聞いて心配になり、思わず連絡してみたが電話もメールも反応がない。これはマジなやつだ。さすがに心配になって何度も稲実まで足を運びこっそりグランドを覗く日が続いた頃、トンボ掛けをしている成宮と偶然遭遇した。

「…何してんの」
「えっ、いや、生きてんのかなと思って」
「豆腐の角に頭ぶつけたくらいで死ぬわけないじゃん」

つーかぶつけてねーし。そう呟く成宮に何のこと?と疑問を浮かべると名前が言ったんだろ!と怒鳴られて、最後にあった日のやりとりをやっとのことで思い出した。そう言えばそんなこと言ったっけ。

「もしかして心配してくれてんの?」
「わ、悪い!?まぁ、成宮からすれば余計なお世話だよね」
「否定しないんだ。ふーん…」
「な、何よ」

あの日のわたしの怒りは何処へやら。そんなこんなで再び連絡を取るようになり、なんやかんやで傍にいるうちにすっかり絆されてしまった自分。今にして思えばなんて甘いんだろうか。
気付けばあっという間に秋大と神宮大会が終わり、高校野球もオフシーズンに突入。徐々に立ち直っていった成宮との関係もいつの間にか修復し、空き時間のできた成宮から事あるごとに呼び出されるのが当たり前になっていた。

「ねぇ見て名前!あのゴリラめっちゃ雅さんに似てない?」
「わ〜ほんとだ!そっくりー!」

コンビニの新作唐揚げが食べたい。成宮の申し出を叶えるために稲実近くのコンビニへ2人で向かう途中、たまたま見つけたどこかの工務店の看板に書かれたゴリラの絵。成宮が言うように眉間に皺が寄る感じはまさしく原田さんそのもので、それを指差しながらゲラゲラ笑うわたしたち。
いつの間にかこんな風に成宮と打ち解けてしまった自分だが、たまに冷静になって客観視すると違和感が半端ない。
ちょっと待てよ、なんでわたし成宮と一緒に爆笑してんだろう。あんなに嫌ってたのに、おかしくない?
ていうか原田さんよ。稲実の新たな四番でチームの要、仮にも新キャプテンなのに笑ってしまってごめんなさい。喋ったことすらないのにネタにしてしまってごめんなさい。お願いだから天罰が下りませんように。

「なんでゴリラに手ぇ合わせてんの?ウケるんだけど!」
「ゴリラをバカにしたら原田さんに呪われるからだよ」
「何それゴリラの呪い!?怖っ!」

いいからアンタも早く謝りな!そう急かして二人してゴリラに向かって手を合わせる。それを傍で見ていた小学生が「お姉ちゃんたち、なんでゴリラにお祈りしてるのー?」なんて聞いてくるもんだから、成宮と目を合わせた瞬間今度こそ腹筋が崩壊するかと思った。

「ちょ、待っ、何してんの俺ら…!」
「あっはは!お腹痛い…アンタが変なこと言い出すからでしょ!」

いやいやいや、なんでまた爆笑してるんだわたし。隣にいるのはあの成宮だぞ。青道の天敵、稲実の成宮鳴だぞ。しっかりしろ自分!そうは思っていても既に手遅れだ。
頭では分かっているけど、湧き上がってくる笑いは堪え切れそうにない。これがゴリラの呪いなのか。
ほんと原田さん勘弁して!

(20210107)
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