仄日に胸を撃たれるとき


【○△公園に14時集合、銀だこで期間限定のやつ買ってきて】

さすがは王様、なんとも横柄な文面である。怒りで気が狂いそうなのを必死に抑えて素直にパシられているのは、隠し撮りされた写真を削除してもらうためだ。
指定された稲実高校近くの公園へ向かうと、私物の練習着姿の成宮がジャングルジムのてっぺんで腕組みをしながらわたしを見下ろしていた。

「遅い!」
「いや、時間ぴったりじゃん」
「俺は30分前から来てた!」
「知らんわ!」

つーか早すぎ!だったら13時半って指定しろよ!地団駄踏みながらツッコミを入れてるとてっぺんから成宮が飛び降りてきた。
危ないな!来週から甲子園始まるってのに怪我したらどーすんだ!

「ハイ回収〜」

これ食べてみたかったんだよね、忙しくてなかなか外出れないからさー。なんて言いながら手に持っていたビニール袋を問答無用で掻っ攫われる。おいおいまずは御礼だろう、ありがとうの五文字はどこ行った!?

「あっ、ていうか期間限定のやつって言ったじゃん!これ普通のねぎだこなんだけど!?」
「わたしが好きなのねぎだこだからコレでいいんですー」

煽るように語尾を伸ばしてそう言ってやれば成宮の顔が無様に歪んでいく。素直に従わなくて良かった、ざまあみろ。そもそもわたしのお金で買ったんだから文句言うな!
未だ不服そうな態度の成宮の後についていくと「まぁいーや、一緒に食べよ」とベンチに座るよう促された。おひるごはん食べたばっかりだから正直お腹は空いてない。だけど自分のお金と労力をかけて買ったものを成宮に全部食べられてしまうのも何か癪だ。そんな小さなプライドのためにたこ焼きを一つ取って口に運ぶ。甘めのソースが口の中で広がって、お腹が空いてなくてもやっぱり美味しいと思った。

「くっそー…なんでわたしの貴重な休日をこんな奴のために消化してんだ…」
「何言ってんの、デートでしょ」
「は?で、でーとぉ?」
「じゃあどういうつもりで来たのさ」
「脅されたからに決まってるじゃん!」

アンタがわたしの写真ばら撒くとか言ったんでしょ、忘れたの?そう続けると、ふーん、なんて言いながら腑に落ちない顔を向けられた。何だその顔。ほんとムカつくな!

「その割には可愛いカッコしてるじゃん」
「別に、成宮のためじゃないし」

急に何だ、褒められたって喜ばないからね。こんなの部屋に投げてあったそのへんの服を適当に着てきただけだし、量産品の安物だし。夏休みだから私服着てきただけで、これがただの平日だったら無難に制服だったし!

「…それ」
「ん?」
「前から気になってたけど、なんで成宮って呼ぶわけ?」
「成宮は成宮でしょ。何、今更成宮クンって呼んで欲しいの?」
「だからそうじゃなくて〜〜〜っ、ハァ…もういいや」

またしても急に機嫌を損ねる成宮についていけない。今日は本当に何がどうしたんだ。
訳が分からなくて戸惑っているとたこ焼きを次から次へと口に運び、あっという間にほとんど食べられてしまった。

「あっ、ちょっと全部食べないでよ!?」
「名前のバーカ」
「はぁ?」
「あ〜〜来週から甲子園かぁ〜暑いんだろうな〜楽しみだなぁ〜」
「くっ、成宮史上最高にムカつく…!けど羨ましい…!」
「…行きたい?甲子園」
「そりゃ勿論」
「ふーん」

真面目な顔をしたかと思えば、次の瞬間には「残念だね。稲実に俺がいる以上、青道は絶対甲子園行けないから」そう言いながら悪魔の微笑みを向けられた。
その言葉に悲しくなって、気付いたら成宮の頭をグーで殴っていた。

「最低!」
「痛いんだけど!?西東京代表のピッチャーに何すんの!」
「豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」

同じ西東京地区なんだから永遠のライバルなのは分かってる。1校しか出場できないのも知っている。だけど勝負の行方はどうなるか分からない。ピッチャーとして自信があるのはいいことだけど、そこまで言わなくたっていいじゃんか。
泣きながらその場を立ち去る際、後ろから小さな声で「そんなんじゃ死ねないよ」と聞こえてきたけど、ツッコミを返す気にもなれなかった。もう二度と会うもんか。


(20210106)
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